X-73話 伝説の鉱山
「うーん。どうしようかな〜、生憎今そこまでの持ち合わせはないんだ。そちらが、どんな金額を提示してくるかにもよるんだけど」
「へっへ〜! そうだな。刀一つにつき、相場が2リーク金貨だからな、それの半額で1リーク金貨で全て取引させてもらおうじゃねーか」
それが合図となり、男の後ろに控えていた、馬に引かせた荷車の風呂敷を取り上げるよう、他の仲間にサインを送った。上に乗っていたわずかな埃が舞い上がると、それが粉塵となって辺り一体に降り注ぐ。その中から出てきたのは、見たことのないような派手な装飾に身を包んだ武器の数々だった。
「ほぉ〜。えらく派手な武器が出てきたね」
ユウシはそう言うと、ごく自然の流れで右手を宙に上げた。さながら、それは髪をかき上げるかのように。その途中で、ふっと馬車に対してユウシは軽くデコピンをしてみせた。通常なら、軽く空気を押し出すだけの、得てして何も起きない事象ではあるが、炎の天恵を持つユウシが行うことで大きくその結果は変わってくる。
まず、第一に押し出されるのは空気ではない。ごく微量の火種がユウシの指の中で起きた衝撃で燃え上がり、荷車目掛けて飛んでいった。一概には言えないが、恐らく男たちは気づいていないだろう。何せ、ユウシに対してのセールストークで頭がいっぱいだからな。
「この刀・・・。材料はいいみたいだね。どこで、取れた鉄を使っているんだい?」
「中々若いのに見る目あんな! これは、ここから北に向かったところにある鉱山でとれたもんなんだ。今は、怪物が現れて発掘が止まっているんだが、その前までは質の良いのが採れるって有名だったんだぜ? 知らないかな、・・・イクッジ鉱山って名前なんだが——」
さて、こんな話が俺の前では繰り広げられていた。とんだ茶番だと思うし、よくユウシもそんな他愛のない話を続けられるのだ。あんなことをしておきながら。ユウシの手から放たれた火種は、三人以外の誰の目に触れることなく、ゆっくりと曲線を描き、そのまま荷車を覆っていた布に付着した。
「ねぇ。何か焦げ臭くないかい?」
とぼけたように呟くユウシ。その言葉に、男どもも反応したようだ。何度も、鼻の穴を大きくしては、口から何度も大きく吸った息を吐き出している。
「た、確かに・・。何か臭うな・・・。おい! この荷車・・燃えているじゃないか!!」
「え〜!!?? 何で急に発火を???」
「そんなの知るか!! 今すぐ消化しろ!!! 大事な商品なんだぞ!!!!」
こちらを見て、少し目を細くしたユウシ。それだけで、心の中に閉じ込めた笑みを感じ取れるほどだ。俺は、それを見て小さくうなづく事で返事を返した。お生憎様、俺も心の中では緑が生い茂るような感覚が芽生えていた。
イクッジ鉱山。そんな昔の人しか知らないような名前を出されても、俺の購買意欲は上がらないさ。そこは、当の昔に廃山した、生きる伝説となっている鉱山だからな。そんな、偽物すぐに分かるんだ。
「コルル。悪いんだけど、検問をやっている人に声をかけてきてもらえないかな? ボヤが起きたんだけどって」
「分かったわ。って、それが狙いなんでしょう? ほんと、男連中って」
毒をつくコルルの姿を、俺は頭を掻きながら見送った。そんなに、顔に出ていたのかな? 少し不安になってくるが、今はこの炎の行く末がどうなるのか見送ることが先決だ。
世界の深淵を0歳までの退化デバフをかけられた俺が覗くとき 卵君 @tamago-re
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