X-72話 王都に蔓延る暗雲
ウェルズ教を深く信仰し、聖典に忠実に沿った政治指針を図る五つの王都。各王都には、大陸中にいる信者が拝む対象物を抱え込み、それを国宝とかし日々厳重に保管されている。
いつ頃から王都として君臨してきたのだろうか。その答えを知るものはいない。気がつけば人々の生活に王都が住み着き、以後何人も疑問に思うことなく日々を邁進してきた。
「並べ並べ!! 一列に並ばんと手続きがスムーズに行われんぞ!!」
現在三人は、王都に入るべく検問を受けようとしていた。ぐるりと囲むように壁を築き上げ、東西南北に門を構える城の作りをしているが、入国者が通れる門は南門唯一つ。歓声のようなため息が四方八方から漏れ、それがより一層身体に疲れを浮かばせる。
「ほんと。いつまで待てば気が済むんだよ。もう、かれこれ1時間は待ったんじゃないか?」
辛抱の限界を迎え、俺はまだまだ遥か先に構える入り口に睨みを効かす。それを、隣に立つコルルが慰めるように、肩を叩いた。
「時間がかかるのは仕方ないわよ。だって、一つしかない入り口と、王都に入りたいという人の需要が釣り合ってないんだもの。前にも人がたくさんいるし、私たちの後ろは、さっきまでよりも多くの人が並んでいるわ」
「それに、いつも以上に一人当たりにかける検問の時間が長い・・・。何か危惧されることでもあるんだろうか」
コルルは後方に伸びる人列を、ユウシは前方で話す番人に視線を送りながら、それぞれの胸中を吐き出す。二人は真剣に目の前の事象に考えを張り巡らせているのに、俺は自分の疲れだけを吐露した結果に少し恥じらいを覚えた。まぁ、それを軽い咳払いでごまかすのだが。
「んっ! まぁ、色々な理由が考えられそうだよな〜。でも、ただ待っているだけじゃあ暇だよな」
「なぁ、あんたら」
「うん?」
退屈を口にし、大きく後ろに伸びをすると、その後方から声がかけられる。振り返れば、そこには屈強な体つきをしたイカツイ顔もての男性が立っていた。背中には、自分の身体ほどの大きさを誇る大剣を抱えていた。柄には、赤いシミが見られたが、そこにあまり視線を送るのはやめておこう。
「あんたら、一応は冒険者・・なんだよな? もしかして、三人で王都に入るつもりなのか? 他の仲間は?」
良い身体付きのわりには、柔らかそうな物腰で話しかけてくる。こちらを、何のことかは分からないが、本気で心配しているようであった。
「あぁ。一応冒険者で、これが全戦力だ。それがどうかしたか?」
俺の代わりに問答するのはユウシだ。右手で、俺のお腹あたりを、彼からは見えない位置で触れている。俺が話すのは控えておいてほしいということだろうか。
「いや。今、王都は物騒だろ? 万引き、誘拐、人殺し、罪になる行為全てが横行している。ありゃあ、まるで王都の皮を被った犯罪都市だぜ? まぁ、王都って名前だけで、他の国や都市から監視を受けないっていうのが、全ての元凶なんだけどよ」
右手で口を他者から遮りながら、小言でそう話してくる。どうやら、あまり大きな声で会話してはいけないことみたいだ。
「こんなに厳重な検問をやっているのにか?」
「あんなの見掛け倒しさ。なんでも、つい最近政治の実権を握った奴がサイコパスらしい。そいつが率先して罪を犯すもんだから、この街も変わっちまったのさ。でも、腐っても王族。誰も文句は言えねーよ」
「逆に問うが、そんな場所に何を求めてあなたは訪れたんだ?」
「そりゃあもちろん。金さ! この王都は今何を求めていると思う? 武器さ。戦うための、命を奪うための力が欲しいんだよ! こんなビジネス誰だって見逃しはしないだろう?」
「なるほど・・。それで少数であり、力もなさそうな僕たちに声をかけたってわけか。武器を買わないかって要件で」
「へへ。賢いね〜。でも、悪くない話だろう?」
一連のやり取りの後、ユウシは俺に軽く
「やっていいぞ」という、合図を込めて。
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