夏が燻る
野森ちえこ
いつかの夏より
夏が躍る
お祭り花火
プールにアイス
思い出あふれる夏の日々
肌を
音の洪水蝉時雨
ジジッと燃えるタバコに目を細め
苦い煙を深く吸いこんだ
夏が薫る
くわえタバコで片ひざ立てて
ガラリと開けた窓の向こう
遠い祭りばやし
ぬるい風に運ばれて
見あげる幼いまなざし
見おろす瞳に浮かぶ苦笑
紫煙くゆらせ
けだるい背中
ラムネ半分
焼きそば半分
わけあってたべた
夏が燻る
澄んだ鈴の音色に送られて
煙突から陽炎
空にくゆる
いのちの熱
一瞬の蜃気楼のように
夏そのものみたいに
天にとけていく
夏がかなしい
夏がやさしい
夏がさみしい
途切れた未来
薄れる記憶
音
におい
温度
立ちのぼる煙に乗せて
いつかの夏に届けよう
会うは別れのはじまり
別れは会うのはじまり
夏から夏へ
秋から秋へ
冬から冬へ
春から春へ
揺らめき流れる煙にいぶされて
めぐってまわる四季の風
過去にやさしさを
今に元気を
未来に思い出を
いつかの夏へ
いつかの夏より
夏が燻る 野森ちえこ @nono_chie
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