オーガニック人間には最初からなっておくべき
ちびまるフォイ
オーガニック人間とだけ関わりましょう
「あなたはオーガニック人間だから、特別なのよ」
両親は私が生まれたときからそれを呪文のように言い続けていた。
今まで一度も買い物を経験したことがない。
それを両親に聞いたこともある。
「市販のものは不純物や体に良くない成分が入ってるのよ」
と親は言う。
学校でも給食は私だけ別々だった。
机は離され、まるでひとりだけいじめられているような縮図。
そんな状態でひとり家からもってきた弁当をもくもくと食べる。
「
「ごめん。給食を食べるとお母さんに怒られるから……」
「そう……」
友達に気を使わせてしまう給食の時間はいつも辛かった。
学校が終わると必ずひとりで帰らなくちゃいけなくなる。
「結城ちゃん一緒に帰ろう」
「ごめん……オーガニックじゃない人と帰っちゃダメって言われてるの」
親の目が届かない学校の中では普通に話していても、
学校を一歩出れば"よそいきの自分"として他の人を遠ざける必要がある。
そうしないと家に帰ってまた怒られてしまう。
「おかえり。今日は学校でなにを学んだの?」
家に帰ると親による授業の復習会がはじまる。
ひとしきり授業内容を聞くと、
「でも、その知識は余計ね。お母さん学校に言っておくわ。
オーガニックにしている娘に変な情報吹き込まないでって。
そうすればあなたは安心して授業を受けられるわね。よかったね」
「う……うん……」
苦笑いしかできなかった。
うちはかなり金持ちらしく学校も親には頭が上がらないらしかった。
翌日。
「いってらっしゃい。今日も寄り道せずに余計なことをせず、
不純なものを入れないように勉強だけしてらっしゃいね」
「はい……」
学校を終えて帰りじたくをしているときだった。
「結城ちゃん知ってる? 〇〇の道にお菓子屋さんオープンしたんだって」
「え? そうなの?」
「今日の帰り見に行かない?」
「でも市販のお店には近づくなって……」
「見るだけでも?」
「……見るだけなら、大丈夫かも」
私ははじめて友達と放課後に寄り道をした。
お菓子屋さんはまるでテーマパークのようで、天井に届くほど積み上げられた駄菓子がキラキラと輝いていた。
「すごい……!」
友達は持っていたお小遣いで好きなものを買っていた。
私は親から1円も持たされていないので、それを眺めるしかできなかった。
「結城ちゃん、はいこれ」
それを見かねたのか友達が駄菓子のひとつを差し出した。
「いいの……?」
「前にプリン食べれなかったでしょ? だからそのぶん」
「ありがとう……!」
はじめて食べる市販品の味は濃くて美味しかった。
水で口をゆすぎばれないようにしてから家に帰った。
「おかえり。今日は遅かったのね」
「掃除当番だったから……」
準備していた嘘を話した。
親は「そう」とだけ言っていつものようにランドセルを改めた。
そして私は自分のミスに気がついた。
「なにこれ。どうしてランドセルに市販の駄菓子の袋が入ってるの?」
「そ、それは……」
「まさか!? 食べたの!? オーガニックじゃないものを!?」
「ごめんなさい……だって……」
「お母さんはね! あなたのためにお金を使って、
不純物のないオーガニック人間にしてあげたのに、
どうして自分から体を汚すようなことをするの!?」
目を血走らせた親に連れられてオーガニック病院へと担ぎ込まれた。
「この子に! うちの子に不純物が入ってしまいました!! 早く手術して取り除いてください!!」
「わかりましたから奥様、落ち着いてください」
「落ち着けるわけ無いでしょう!! 不純物が定着したらどうするんですか!
うちの娘がオーガニック人間じゃなくなったらこの病院を訴えますからね!!」
手術はすぐに行われた。
私は麻酔で眠っていたので何が起きたのかはわからなかった。
術後はしばらく療養となり、オーガニック病院で入院することになった。
「学校……いきたいなぁ」
「まだダメよ。それに今後は友達もオーガニック人間だけにしなさい。
あなたが本当はあんな化学薬品と不純物まみれのゴミを食べるわけなくて、
本当は悪い友達にそそのかされただけってこともわかってるから」
「そんなにオーガニックって大事なことなの」
「そうよ。不健康な人間は精神も不健康になるの。
体がきれいな人間は心も精神も脳もなにもかも健康ですばらしいのよ」
「でも……学校の友だちはみんな普通だよ?」
「それはね、不健康なのが表に出てないだけ。
不健康な人間はいつも心のそこで悪いことを考えているのよ」
「お母さん、私……転校する?」
「なんでそんなこと聞くの?」
「もうオーガニック人間としか関わっちゃだめって言ってたから。
学校の友だちはみんな有機人間だから……」
「転校も考えたんだけどね。やっぱり環境を変えるのはあなたに良くないでしょう?」
「転校しない?」
「ええ、転校しなくてもいいようにお母さんがしてあげる」
今回の件でますます親はガードを固くすると思った。
これまで以上に友達とは距離を置くことになり、自由な行動もできなくなると思っていた。
でも、親はこれまで通りでいいと言ってくれたのが何よりも嬉しかった。
私のことを第一に考えてくれる親を二度と困らせないようにしようと思った。
数日後に私は退院した。
「お母さん、今日から学校に行ってもいい?」
「ええ、勉強がんばってね」
「うん!」
久しぶりの学校が楽しみだった。
やっと友達に会える。
ずっと話したかったことがたくさんあった。
みんなの話を聞くのが楽しみ。
教室に到着すると、元気に声をはりあげた。
「おはよう!」
ドアを開けると、それぞれの座席には培養液につけられているクラスメートがいた。
目は開いているのに意識はなく動かない。
「せ、先生……これ……」
言葉がうまくでなかった。
担任の先生はいつもと変わらぬ調子で答えた。
「君のお母さんがこれまで通り友達と学べるように、
みんなをオーガニック処理してあげているんだよ。よかったな」
友達は肌も紙も目の色も真っ白になっていった。
オーガニック人間には最初からなっておくべき ちびまるフォイ @firestorage
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