第2話 

僕は幻をみた

昼間の青空から一変して…一瞬に黄昏色に包まれてた


大きな神社の中にいたはずの僕は…


あれほどの沢山の人達

ざわめきが消えて 金色の光だけに包まれた



神社の巫子の衣装をまとい 金の冠 金の鈴を手にとり

祭の舞を舞うかのような衣装の小さな子供たちが僕の前を通りすぎた…


目の前にあるのは伝承の御話 梅の木


大事な道真公を慕って 梅の木が 京都の地から 福岡のこの大宰府まで

飛んできたというが…

太宰府には 木の精霊の伝説がある


『主なしとて 春な忘れそ (主がいなくても春を忘れるな)』

菅原道真公の詠んだ句  上の句は・『東風吹けば 思いおこせよ梅の花‥』


「東風とちふけば 思いおこせよ梅の花主あるじなしとて春な忘れそ」


交換留学生の彼女は 綺麗にカールされた淡い栗毛色の髪をゆらし

深い灰色混じりのダークグリーンの大きな瞳で まじまじと僕の顔を見ながら…

笑って訊ねた


「学問の神さまの御話を聞いたの 明日は福岡の太宰府に行くわ」

「花の木の精霊を見てくるね」


その彼女の言葉に ぼくは目をパチクリさせた


「ねえ!来ない?」


誘われるまま 此処へ…福岡の大宰府へ




「ずいぶんと久しぶりに来たよ

ここは相変わらず緑が多くて‥まだ小さかった頃で 迷子になって大変だったよ」

賑やかな 大きな神社の中で僕は答えた


「正月には 学問の神さまだから 受験生がわんさか来るよ

最近は資格試験の御札もあるらしいけどね」


「なんで 学問の神さま?」彼女は尋ねる


「幼少の頃から賢くて 神童だったんだ‥天才

‥で‥成人の後は 政まつりごと 政治の中心にいたんだけど」


「政敵に蹴落とされた形で この地に来たんだ

監視されて 食事さえ 大変だったらしい」


「見かねた老女が 梅の木の枝で監視の目をくぐって 餅を差し出したのが

この「梅が枝餅」のいわれ‥だったかな?」


「ふうん そうなんだ」彼女が興味深々で聞く


僕は すぐ傍の店で買った餅を数個を彼女に差し出した 焼きたてで 暖かく 

中には餡子(あんこ)がたんまりと入っていた


「こちらは外側の餅の色が 緑色?」 


「そうだよ こっちはヨモギ入りの餅 餅の中にヨモギが練りこんである」


「よもぎ入りは たまにしか置いてないよ・・正月と25日だけだったかな?」


池の上の大きな橋 沢山の参詣客に混ざり

山のような円形 半月の橋を渡り 橋の下の池や廻りの大きな木を眺める錦鯉に

まざり 小さな亀が泳いでる


「…でね」


「流された 都から遠いこの地で亡くなられたのだけど‥不思議な出来事が都で沢山あって 神様として祭られたんだ」


「神童といわれる程の天才だったから 学問の神さまなんだ?」彼女が尋ねる


「そうだよ」僕は笑って答えた


「でね 不思議伝説の中に 梅の木が飛んできた‥という話 が

君が昨日 話したことの中にあるよ」



「都から 家族とも引き離されて この地に来るのだけど

庭にあった お気に入りの 大事な梅の木があってね」



「梅の木に一句詠んで この地に来たら…」


「梅の木が寂しがって 関西の京都から 福岡の大宰府に飛んで

きたらしいけど」


まじまじと 楽しそうに彼女は聞いている

「日本の不思議伝説?」 


「う~ん 不思議伝説は沢山あるけどね…神社関係のお話は此処の九州には多いね」


「私の上の兄さんが 京都の大学で 留学中なんだけど 

日本の歴史と神社の不思議伝説 伝承を調べてるわ」


「私の場合は‥日本に来た目的は 東京とかのアニメやゲームのコスプレなんだけどね えへへ」


「今度 兄さんは 九州にも調べにくるらしいわ」


「そうなんだ 

九州も 神社関係の伝承は多いからね 福岡なら 宗像大社さまに 箱崎宮さま」


「大分の宇佐神宮さま 宇佐さまは八幡宮の総代 宗像大社さまは 海の三女神

僕はそんなに詳しくはないけど‥」


「せつない御話なら 平家の赤間神宮さま…」


「赤間神宮は山口の下関市で九州近隣 

それから 広島になるけど厳島神社さまも海の中にあって綺麗らしいね」


「古代の百済ゆかりの神社さまが熊本にもあった 九州ではないけれど 

鳥取県の出雲大社さま」

何故か 九州方面などの神社の話となる


「へえ~! 兄さんは先月は 伊勢神宮‥さま ‥さま?でいいの?

そちらにも寄ったらしくて スカイプで 話していたわ

それから大阪 奈良の仏閣はすごいよね」彼女がそう話す


「そうだね 京都の仏閣 八坂神社さま 清水寺 他にもたくさんあるから」


「奈良の唐招是寺さま 薬師寺さま 興福寺さま 阿修羅像もすごいよ

先ほどの百済 百済観音さまは 確か…」


「東北や北海道は?」


「東北や栃木も多いよ 最近 世界遺産に登録された処は」

そんな話をしながら 幾つかの大きな輪の形の橋を渡り 境内の門をくぐる



奥の右手に梅の木

「どっち?両方?」 と彼女は尋ねる


「右手の…」と言いかけて

空が金色の光に包まれる 眩しさに目がくらむ


誰もいない‥

金色の光の中で 神社の祭りの衣装をまとった小さな童たちが 笑いながら頭には金の冠 冠には沢山の鈴がついていた


そして、手の鈴を鳴らして愉快そうな笑い声をさざめかせて 僕の前を通りすぎた


「…こんにちは」

女の子に声に振り返る 木の下には 大昔の衣装をまとった小さな女の子 

腕には透ける紗の布

泳ぐように宙に浮かび 僕の目の前にいる


「ずっと昔に来たね ねえ、君は小さい頃に迷子になって 

一人でいたことがなかった?」


「………迷子?」


「そう…忘れた? 前に迷子になった時に しばらく一緒に『かくれんぼ』して

遊んだよ」




「ふふ、現世 浮世の君  また、今度遊ぼうね? 綺麗な人が待ってるから 

早く帰りなさい」幼い少女の姿 姫巫女の姿の少女が言う


「君? 一体誰? 少女に僕は問いかけた?」


幼い少女は笑う 


「春になったら 梅の花を咲かせないと‥花は実をつけて‥」


「毎年、毎年 いつものように…大事な方に呼ばれたから ずっと昔に此処に来た  

私はずっと 此処に居る」


「また、遊ぼうよ」 少女は満面の笑みを浮かべた


まばゆい光が僕を包んで それから




「ねえ!何処に行ってたの? 

振り返ったらいなかったから ずっと捜してたのよ!」


交換留学生の彼女は半泣きしながら 僕に問いかける


「あ・・」



「何?」「その・・ごめんね」

どうしていいかわからないまま 僕はただ謝った


「もう!」

彼女は口をとがらせて すねる


「今日の晩御飯は 地元なのに 

迷子になって心配かけて迷惑かけた 誰かさんがおごる!」


「はい 僕が全額だします」


彼女は笑った 奇妙なことに その笑顔は あの幼い少女の笑顔に似ていた




FIN



亡くなった私の母が 梅が枝餅を店で焼いてました

4つ分の両面焼きで 餡子をぽんぽん・・と言っても当時、私は小さくて覚えてないです

昔の御話です

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梅の木 のの(まゆたん@病持ちで返信等おくれます @nono1

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