最凶の奥様、都市伝説もぶっ潰す

達見ゆう

世の中には都市伝説が日々生まれる

「ユウさん、ちょっとSNSに載ってたのだけど、書き込みからして、都市伝説の『蒼い女』はこの近所っぽい」


 僕はパソコンの画面をスクショしてから共有にしてユウさんのアカウントへ送信しながら言った。


「都市伝説ぅ?」


「そう、夜中に『どうしてそんなにも蒼いの?』と声を掛けてくる女がいる。返事次第では命を奪われるという奴」


「アホくさ。そんなんで死んでたら『連続変死事件』でマスコミやら警察が騒ぐだろ」


 相変わらずユウさんは現実主義だ。


「で、逃げて助かった人達に聞くと共通しているのは皆何かしら『青色』を身に付けてたんだって。服、バッグ、アクセサリー、青い髪の人もあるな」


「うーん、その青と蒼って微妙に色が違うからその女は知性が足りんな」


「いや、ユウさん。僕はそういう話してるのではなくて、気をつけてよ。書き込みからしてコンビニの名前やら坂道を走ったなどあるやら、なんとなくこのご近所と一致するのだよなあ。で、一番多い出没場所という『平屋建ての古い空き家』って近所にあるじゃない」


「私は青なんて着ないぞ」


「たまにあるでしょ。ほら、今度の金曜がそうじゃない」


「あ、そっか。でも、どうせ不審者だろ。とっ捕まえてやるよ」


 ユウさんは相変わらず怖いもの知らずだ。知らずに黄泉の国の女王と渡り合い、不審者を改造エアガンで追っ払い、異世界でも凶暴さをいかんなく発揮していた。


「ユウさん、心配だから駅に着いたら連絡して。迎えに行くから」


「リョウタは優しいな、一人でも大丈夫だよ」


 いや、ユウさんを心配してるのではない。生きてるか死んでるかわからないが、相手の女の身が危険と感じたからだ。


 とにかく、金曜日になった。僕は約束通りユウさんからの連絡で駅で待ち合わせして落ち合い、一緒に帰ることにした。


「大丈夫だと言ってるのに」


「いや、そのカッコは条件に当てはまるから」


「リョウタは大袈裟なんだよ」


 そんなやり取りをしながら、疑惑の場所である『古い平屋建ての空き家』の近くに差し掛かった時、それは聞こえた。


「ねえ、なんでそんなにも蒼いの?」


 マジか。僕の嫌な予感は的中してしまった。


 振り向くと目つきのおかしい小太りの女性がふらつくように立っている。


「それはだなあ……」


 まずい、ユウさんが迎撃モードに入った。


「ユウさん、逃げよ……」


「私は蒼きサムライブルーのサポーター、そして田中碧のファンだからだぁっ!」


 僕の呼びかけは間に合わず、ユウさんはどこからか取り出したサッカーボールを力いっぱい女に向かって蹴った。ボールは見事に顔面に命中し、気絶してしまった。

 そう、今日は日本代表戦、ユウさんは代表の青いユニに田中碧選手の背番号を入れていた。普段は赤いユニを来ているユウさんが青を着る数少ない日だったのだ。


「お、遅かったか。過剰防衛になったら処分されるのに」


「リョウタ、110番通報しろ。そのときに『二十三条疑いです』と添えろ」


 僕は訳の分からないまま、言われた通りにした。


***


 結果的に僕達はお咎め無しとなった。女は精神を病んでいて、病院から逃走して空き家に潜伏していたのだ。そして空き家から包丁を持ち出し、それを所持していたので正当防衛とされた。


「ユウさんが言ってた『二十三条疑い』って精神病疑いの人の通報だったのね」


 警察の事情聴取からの帰り道、僕はユウさんに確認するように尋ねた。世の中知らないことが多いな。


「ああ、場合によっては即入院となる。目つきのおかしさから直感した。子供を亡くしたショックからおかしくなった点は同情するが、病院から脱走したり人を襲おうとするのはダメだ」


「ああ、子供の亡骸に『なんでそんなにも蒼いの』とずっとすがって泣いていたというのは確かに可哀想だ。旦那が『諦めよう、その子は死んだのだから』と言い聞かせても聞き入れなくて、それから蒼や青い物を憎むようになったから旦那が入院させたと言ってたね。怪我させたのはこっちなのに『見つけてくれてありがとうございます』と旦那さんにお礼言われちゃったし。

 ところで、なんでサッカーボール持ち歩いてたの」


「武器にするた……い、いや、出待ちして田中碧選手からサイン貰いたかったけどガード厳しくって貰えなかった」


 最初からやる気満々だったのも、見え見えの嘘を付くのも、もはやお約束だ。


「今回は結果的に都市伝説を潰して、人助けになったのだからいいのかな」


 僕はそう思う事にした。




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