僕は君に、

 パチリと目がさめる。

 すでに日は落ち、灰色になった病室を呆然見つめる眼がしだいに冴えてくる。

 「あれ、僕は何をして、」

 ここは何処だろうか。

 何も思い出せない。何も分からない。

 何故、口から伸びているチューブをじっと見つめて、働かない頭で模索する。

 十数回同じことを繰り返すが、一度として答えは返ってこない。

 ただ、どういうわけか、強い喪失感、いや不足感と言った方がいいだろうか、何となくそんな感覚が残っていた。

 訳が分からない。

 僕は、自分が何者か知らないのに、誰か足りないことだけは確信している。

 「会わなきゃ。」

 誰か分からない、でも誰かわかる。

 心のなかで矛盾を抱えたまま、おぼつかない足取りで、僕は病室を抜け出した。

 病室は無人となる。ただ、開けられた窓のカーテンが、吹き抜ける風にあおられ、音をたてるのみ。

 

 (あの人に会いたい。)

 裸足でかける音が廊下に響き渡る。

 彼女とは違う形をまとった狂愛は、静かに目的地へと向かった。


 ―――――――――――――――――――――

 病院からでたはいいものの、会いに行く人が何処にいるのか、誰なのかも分からない誠四郎は、裸足のまま、直感に頼るがまま知らない町を歩いていた。

 「ここ、本当に何処なんだろう。」

 足の向かうままに、歩いている間、誠四郎は町並みを見て、そんな感想を漏らす。

 何か自分の正体のヒントがないかと、探してみるも、まったく思い出せない。

 強いて言うなら、雨で濡れた地面がとても気持ち悪い。あと、足が痛い。

 靴ぐらい履いて来ればよかったなどとも思ったが、時間がないような気もしてすっかり忘れていた。

 「あいたた。」

 足にちょくちょく攻撃してくる小石に恨み言をはいていると、いつの間にかT字路に立っていた。

 「次はどっちかな。」

 これからいく方向に、これまでと同じように直感に任せようと、一つずつ覗いていくと、一人、女性が歩いているのを見かける。

 「あれ、あの女の子。」

 ああ、あの子だ。一目で確信した心は、体より先に、動いていた。

 ――――――――――――――――――――――

 「ごめーん、そこの女の子ー。」

 「・・・え?」

 町の住民に(夜中にごめんなさい。)と思い謝りながら、振り向く女の子に向かって駆け出す。

 裸足のせいか、あるいは痛みか、たいして早くもない駆け足で近寄る。

 当の本人はめを丸くして呆然とこちらを見ているが、構わず彼女の手を取り、荒い息を整えて、自己紹介をした。

 「初めまして、僕・・・は自分自身誰か分からないけど、多分君の知り合い。よろしくね。」

 「え・・・あ、そっか。・・・。えっと、私、幸崎透華。あなたの、奥田誠四郎の彼女です。よろしくね。」

 一瞬彼女の顔が暗くなる。多分、僕のせいだろう。

 「奥田誠四郎って僕の名前?」

 「うん。」

 「へー、画数おおくて、テスト不利そうな名前だね。」

 少しボケてると、彼女はクスクスと笑う。ただ、どこか寂しそうだ。

 「ねぇ、聞いて、せーちゃん。私ね、人殺しなんだ。今だって、あいつを殺したくてしょうがない。」

 唐突なカミングアウト。記憶を再起動してから40分ほどで、こんな内容を聞かされるとは主はなかった。

 内心、すっごい驚いてる。

 でも、何か足りないよね。

 「ねぇ、何でそうしたの?」

 「衝動だった。」

 「きっかけは?」

 「・・・。」

 「聞かせて、ね?」

 「せーちゃんが死んじゃうと思って。」

 「守ってくれたんだ。」

 俯いた彼女の顔をぎゅっと抱き締める。

 僕はほとんど君を知らないけど、多分、知ってるんだろう。君の弱さと強さを。

 「あれ、何も知らない女の子に、何でこんなことしてるんだっけ?あれれ、僕ってもしかしておかしい?」

 「うぅぅ、今更だよー。うぅぅ」

 泣きながら肯定されてしまった。 

 「はぁ、おかしいのか。僕。」

 「うぅぅん。」

 「あの、これいっちゃなんだけれど、多分君もおかしいよ?」

 「うぅぅぅん。」

 肯定されてしまった。

 はぁ、そうか。おかしいのか僕。なんだか納得いかない。まぁでも、いい気分だ。

 「そっか、じゃあ僕たちはいいカップルじゃないか。僕も君も狂ってる。狂人どうしのバカップルってことで。」

 「・・・なんが、せーちゃんじゃないびたい。」

 「鼻水滴しながら恋人に言う台詞かなそれ。」

 呆れながらそういう誠四郎。

 恐らく今後、彼女と離れることはできっこない。

 互いに寄りかかって寄りかかって、共依存し切っている。でも、それでも確かな愛情があった。

 記憶を失っても、忘れられない恋人がいる。幸せなことだ。

 あぁ僕はもう、どうしようもないくらい。

       彼女に依存している。



 ―――――――――――――――――――――

 あとがき

 次回、墜ちた彼女がヤンデレ化しました。

 

 あ、今まで、高校の文化祭に向けて絵の練習してました。ギリギリイラスト書き上げて出せました。

 いや、自分でいっててなんですが、この物語続けるのムッズイッす。

 最後にご報告、新作の小説、

     「ヒロイン FlasHDrive」

 をこの一年間かけて設定とストーリーを考えまして、この自作はそちらに力を加えていきますので、投稿が遅れてしまうことをお許しください。

 就職先も決まり、社会人の一員に成りますが、このなかでは、理想や夢を作品にする一人の作者として頑張りたいと思います。では、また次回お会いしましょう。

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堕ちた彼女がヤンデレ化しました Sニック @Sniku

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