第3話
子供の成長はあっという間だ。日常が忙しすぎて、時間の経過を意識する余裕がなかったから余計に早く感じるのかもしれない。
息子の通っている保育園の園庭には大きな桜の木がある。広い園庭に1本だけ、大きな桜の木がある。春になると桜の花が咲き、絶好の撮影スポットになる。桜と息子の写真を撮ろうとすると、背景にスカイツリーがヌッと顔を出す。意識せずに見事な構図が出来上がった。
息子にとってスカイツリーは日常の風景なのだと思う。生まれてからずっとスカイツリーが身近にあるのだ。物事を斜めに見るようになってからスカイツリーを知った僕なんかより、ずっと純粋にスカイツリーが日常に溶け込んでいるのだろう。なんだか羨ましい。
このところ、コロナウィルスが猛威をふるっている。
1年以上もコロナウィルスに振り回されるとは思いもしなかったが、世界中が異常事態だ。コロナウィルス対策の切り札の1つであるワクチン接種が医療従事者、高齢者を対象としてスタートした。そして、ようやく僕にも順番が回ってきた。
予約開始時間よりも少し前にパソコンを立ち上げ、予約開始時間と同時に予約ページにアクセスし、無事予約ができた。
接種会場はスカイツリーだ。
まさか、スカイツリーでワクチン接種をすることになるとは、完全に想定外だ。スカイツリーのイーストタワーの20階が接種会場になる。何回もスカイツリーやソラマチに行っているが、イーストタワーは基本オフィス棟なのであまり馴染みがない。
予約時間の15分前にイーストタワーの1階に着いたが、接種予定者が列をなしており、10分程エレベーターの前で列に並んで待った。この列の状態が既に「密」では?と思ったが、まぁ止むを得ないのであろう。
順番が来て、いったん12階を経由して接種会場である20階に行った。人が多い。100人は優に超えているだろう。
人は多かったがオペレーションが上手だったのだろう、比較的スムーズに事が進行した。接種票、問診票、本人確認資料のチェックを受けたのち、医師による問診を受ける。問診時、
「何か不安はありますか?」
と聞かれたが、
「何もありません」
と元気よく答えた。早く接種をして安心したかった。
問診の後、ワクチン接種をしたが、テレビで見るイメージよりは痛くなく、あっさり終わった。もともと注射が苦手ということもあるが、テレビで見た長い針が腕に入っていく様子に少し恐怖を感じていた。あっさり終わってホッとした。
その後、接種済みのシールを貼ってもらい、椅子に座るよう誘導された。接種後15分は安静にする必要があるようだ。スマホをいじりながら安静にし、特に異変もなかったので、15分経過後すぐに会場を後にした。
エレベーターを1階で降りて、外に出た。ここまでは自転車で来ていたので、駐輪場へ向かって歩いた。スカイツリーを見上げるとライトアップされている姿が相変わらず綺麗だ。近くで見上げるスカイツリーはやはり迫力がある。自宅周辺から見るスカイツリーとは雰囲気が違う。男らしい感じがする。
今日は息子とスカイツリーに行った。小学生になり、自転車に乗れるようになったので、スカイツリーまでそれぞれの自転車で行った。スカイツリー周辺は人も多いので、ぶつからないかハラハラしていたが無事に到着する事が出来た。
子供は日々成長している。
スカイツリーでひとしきり遊んで、ご飯を食べると、あっという間に時間は経過する。外に出る頃には暗くなっていた。
スカイツリーを見上げた。
「やっぱり大きいね」
僕は、顔を上げてスカイツリーを見つめる息子を見ながら言った。
「そうだね」
息子はスカイツリーから目を離さずに答えた。
「スカイツリーって、634mもあるんだけど、なんで634mか知ってる?」
「知らない」
息子は興味がなさそうだ。流石に小学生には難しかったかもしれない。
「この辺りは昔、武蔵という名前の場所で、634はムサシと読めるでしょ。昔の地名とつながってるんだよ」
「へぇ、そうなんだ」
息子はスカイツリーから視線を僕に移して答えた。難しすぎると思ったが、理解できたのだろうか?まぁどっちでも良い。
僕はスカイツリーを見上げて、息子に言った。
「今日はカラフルだね」
いつもよりもたくさんの色で光っている。
「そうだね、オリンピックカラーだね」
息子はスカイツリーを見上げながらこう言った。なかなか難しい言葉を知っているようだ。
僕と息子はもう少しだけスカイツリーを眺めた後、それぞれの自転車に乗って自宅に向かった。
「ライトつけろよ。暗いんだから」
いつものスカイツリーで うえすぎ あーる @r-uesugi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます