第2話

息子が生まれた。里帰り出産だったので、息子が生まれた後は1ヶ月ほど1人暮らしだ。

「久しぶりの1人暮らしだ!遊べる、やったー!」

と思っていても、実際に1人暮らしをすると意外と質素だったりする。都合よく遊びの予定が入ることもなく、日々の仕事のことを考えると羽目をはずして活動的になることも憚られる。結局普段の生活だった。いや、1人でいる分、普段よりも退屈だった。


とある休日、退屈しのぎにスカイツリーに隣接する商業施設ソラマチに行った。退屈しのぎとはいっても、一応目的はあった。父の日と母の日を兼ねて江戸切子のグラスでも買ってプレゼントしよう、と、1人ならではの非日常的発想に駆られてしまったからだ。


ペアの江戸切子のグラスを見つけ、意外と高いな、と心で呟きつつ購入した。ちょうどキャンペーン期間中だったようで、購入額に応じて抽選券がもらえた。4枚もらったので4回ガラガラを回せる。ガラガラが正式名称だったかは思い出せない。1人だとなんだか気恥ずかしかったが、4枚もあるので何か当たるだろうと思い、抽選会場に行った。


「4回ですね。」

係の女性が笑顔で僕の抽選券を手に取り、ガラガラを回すことを促した。


ガラガラガラガラ、コトン


白い球が出た。

「はいハズレですね。こちらをどうぞ」

僕は駄菓子を手渡された。気恥ずかしい気持ちを隠してガラガラを回した挙句、1人でハズレを引き、「ハズレですね」と気持ちのいい声で伝えられるのは精神的にキツい。「なんだよ、ハズレかよ!」と言う相手もいない。

すでに4枚手渡しているので、あと3回ガラガラを回す必要がある。もう3回「ハズレですね」と言われることに耐えることができるだろうか。

僕は意を決して、2回目のガラガラを回した。


ガラガラガラガラ、コトン


「おっ!?」

さっきと色が違う。銀色だ。期待ができる。

「おめでとうございます。3等です」

「やった」

思わず、控えめな声が出てしまった。僕は小さなキーホルダーを手渡された。小ぶりだが精巧に出来ている銀色のスカイツリーのキーホルダーだ。スカイツリー土産には良さそうだ。

僕はこの流れを壊さぬよう、すぐに3回目のガラガラを回した。


ガラガラガラガラ、コトン


「あっ、さっきと同じだ」

僕は係の女性の顔を見ながら言った。

「おめでとうございます。3等です」

僕はもう1つ全く同じスカイツリーのキーホルダーを手渡された。

「よし、最後やります」

僕は4回目のガラガラを回した。


ガラガラガラガラ、コトン


「おーっ、また同じ」

流石に3回同じだと嬉しくなる。

「3回連続はすごいですね。おめでとうございます」

係の女性は3個目のスカイツリーのキーホルダーを僕に手渡した。


期せずして3つのスカイツリーのキーホルダーをもらった。息子が生まれたばかりだから、妻と息子に1つずつあげればちょうど3つか。妙に数があっている。僕は、3つのキーホルダーをにポケットに突っ込んだ。


後日、里帰り出産から戻った妻と息子に渡した。息子の分は子供用のオムツやら着替えやらを入れるリュックに付けた。


しばらくの間、家族3人がスカイツリーでもらったスカイツリーの同じキーホルダーをつけている、という状態だった。これを頬笑ましいというのだろう。

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