海の星で命を狙われた美鬼・アリアンロード②ラスト

 アリアンロードの将の話しを断るつもりでいた睡蓮が口を開くより先に美鬼は、とんでもないコトを睡蓮に告げた。

「わたくし、現在命を狙われておりますの……『黒砂衆』の数名から、おそらく、わたくしに怨恨を抱く何者かが差し向けた刺客ですわ」

 言葉に詰まる睡蓮。


 また、小屋の外にいるロヴンが、アリアンロード第九将・悪食バハムートに体の半分を飲み込まれながら、読者に向かって言った。

「『黒砂衆』は銀牙系で主に暗殺を生業にしている危険な集団です、不可解な力を持っています……あっ、呑み込まれるぅぅ。あたし食べられているうぅ」

 ロヴンの姿は、悪食バハムートの口の中に消えた。


 しばらくして、睡蓮が言った。

「黒砂衆とは、また厄介な連中に狙われたな」

「きょほほほっ、人気者は辛いですわ……アリアンロードの将のお話しは少し保留にしておきましょう……話しは変わりますが。この星にいる間わたくしの身を黒砂衆から守ってくれるボディガードを、お願いしたいのです……ボディガード料は出しますわ」


「オレは金じゃ動かねぇ……アリアンロードなら、優秀なボディガードはいくらでもいるだろう」

 睡蓮は、チラッと美鬼の少し後方に立つ、結晶植物の鋭い葉翼を背中から生やした、美神アズラエルを見た。

「きょほほほっ、わたくは睡蓮にお願いしたいのです」

「万が一、守りきれなくて殺されてもオレのせいにしないと約束するなら、ボディガードをやってやってもいい」

 アズラエルが、赤い葉脈が走る結晶植物の天使の葉を一枚千切って、構えたのを見た美鬼がアズラエルを制して睡蓮に言った。

「その条件で結構ですわ、わたくし明日は、この孤島の砂浜でバカンスを楽しむつもりですわ……ボディガードよろしく頼みますわ……きょほほほっ」

 睡蓮の前から去っていく、美鬼にアズラエルが小声で囁く。

「ボディガードなら、オレがいますよ」

「きょほほほっ、アズラエルにはいつも感謝をしていますわ……でも、今回だけは。睡蓮に任せて欲しいのです……他のアリアンロードの将にも伝えておいてください、何があっても手出し無用ですわ」

「なぜ、そこまで彼のコトを……」

「きょほほほっ、アリアンロードの将となるかも知れない者を……仲間を信じているだけですわ。わたくしは大丈夫ですわアズラエル。バルトアンデルス文明の守護がありますから」


 翌日──美鬼・アリアンロードは島の狭い白い砂浜にいた。

 水着姿で、ビーチチェアに寝転び、パラソルの日陰の下で読書をしながら優雅にバカンスを一人で楽しんでいた。

 美鬼から少し離れた、椰子の樹に似た植物の森に設置されたハンモックに揺られながら、睡蓮は砂浜の美鬼を眺めていた。

 睡蓮がいる椰子に似たの樹の森からは、あちらこちらから湧水が染み出ている。

「命を狙われているのに 、気楽なものだ」

 浜にはナラカ号から美鬼が連れてきた、ハニワの執事がいて冷たい飲み物をグラスに注いでいる。

 ハニワ執事が睡蓮に言った。

「あなたのような方が、美鬼さまのボディガードをしてくださって、安心です」

 睡蓮は無言でハニワ執事が立っている、足下の砂を見ている。

 ハニワ執事は、グラスに注いだ飲み物を睡蓮に差し出して言った。

「冷たい飲み物です……どうぞ」

 睡蓮は、革の手袋を外してグラスを受け取ると、何も言わずにグラスに入っていた飲み物を白い砂の上に捨てて言った。

「いつまで、執事に化けているつもりだ……黒砂衆」

 にこやかな表情で睡蓮の言葉を聞いているハニワ執事。

 睡蓮が続けてしゃべる。

「ハニワ種族は、風に吹き飛ばされるほど軽量だと聞く……それなのに、おまえの体重は重すぎる」

 ハニワ執事の足下の砂は、数人分の重さに沈んでいた。

「化けるなら重量にも注意を向けるんだったな……黒砂衆」

 ハニワ執事の顔が、おぞましい笑い顔に変わる。

 ハニワ執事が言った。

「気づかなければ、飲み物に混入した。痺れ薬で長生きできたものを」

 ハニワ執事の体が砕けるように割れ、中から黒い霧のような、黒い砂のような黒砂衆数名が現れた睡蓮の周囲に生えている樹の蔭に、吸い込まれるように消えた。

 黒砂衆の声が周囲から聞こえてきた。

「美鬼・アリアンロードを葬る前に、お前を始末してやる」

 睡蓮の背後の樹の蔭から、猫のような目をした黒衣姿の男が特殊な短剣を手に睡蓮に襲いかかる。

 睡蓮は、振り向きもせずに片腕を伸ばして、襲ってきた黒砂衆の胸元を、皮手袋を外した手の平で突く。

 精神爆弾を体に埋め込まれ、顔を歪ませる黒砂衆。

「ぐっ!?」

 精神爆弾が破裂して、心の壊れた黒砂衆が倒れる。

 次々と、黒い霧状になって移動して襲ってくる凶刃を。睡蓮は水から水へと移動して、黒砂衆に精神爆弾を埋め込み爆発させていく。

「ぐあっ」「ぐぐっ」

 精神が崩壊して倒れた黒砂衆に向かって睡蓮が言った。

「爆発力の加減はしておいた、心が少し折れた程度の崩壊だ……自力で復活できる」


 すべての黒砂衆を倒したと思った睡蓮は、背後に人の気配を感じて、上半身をねじり振り向き、腕を後方に伸ばす。

「まだ、残っていたか!」

 睡蓮の手がムニュポヨッとした、柔らかい塊に触れる。

「きょほっ?」

 胸をつかまれた美鬼が、不思議そうな声を発する。

 危うく精神爆弾を美鬼の胸に埋め込む寸前に、手を離した睡蓮に美鬼が言った。

「わたくしを、黒砂衆の凶刃から守ってくれたのですね」

 睡蓮が美鬼に訊ねる。

「怒らないのか?」

「怒る? なにを怒る必要があるのですか?」

 睡蓮は、精神爆弾を埋め込まれそうになっても許す、美鬼・アリアンロードの寛大な心に触れて頭頂の目から涙があふれる。

(なんという、大きな心のお方だ……オレが危うく精神爆弾を埋め込みそうになったのに、微笑み許してくれた……女神だ)

 美鬼・アリアンロードの前にひざまずく『戒めの睡蓮』

「感服しました……この『戒めの睡蓮』アリアンロードの将として、お仕えします……いいえ、お仕えさせてください」 

 美鬼・アリアンロードは胸など、いくらでも触らせてあげますのに?

 そう思いながら、新たなアリアンロードの将になった『戒めの睡蓮』に向かって、祝福の高笑いをした。

「きょほほほっ、こちらこそ、よろしくですわ。アリアンロード第十四将・戒めの睡蓮……きょほほほほほほほっ」


 白い砂浜に、いつまでも美鬼・アリアンロードの笑い声が響き続けた。


海の星で命を狙われた美鬼・アリアンロード~おわり~

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第四の壁越え女神『ロヴン』がナビゲートするよ♪ 楠本恵士 @67853-_-

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