アリアンロード第十四の将と美鬼・アリアンロードの出会い

海の星で命を狙われた美鬼・アリアンロード①

 水の惑星【ケルピー】──その星の海で周囲を断崖で囲まれた孤島に、他者を拒絶するように住んでいる、一匹の妖怪ガラッパ型異星人がいた。


 手足が長い妖怪型異星人で孤高の『睡蓮すいれん』は、質素な小屋の中に置かれた水瓶から、柄杓ですくった水を飲みながら言った。

「おまえも、しつこいな……オレは、アリアンロードの将なんかに興味はない」

 目の辺りが髪で隠されている睡蓮の、頭の上の複眼皿の黒目がギョロと動く。

 短パンを穿いていて、上半身が裸の睡蓮の後方の隙間には、黒い糸巻きのような星形のようなモノが浮かんでいた。


 黒い糸巻きは平らになったり、中央が膨らんだ棒状になったり形が定まっていない。

 数十センチの隙間に浮かぶ膨らんだ棒状の物体が言った。

「少しは親友のオレの話しを聞け、おまえを第十四の将として美鬼さまに推薦したのはオレだ……そろそろ、自分に課せた戒めを解いてもいいだろう……いつまで、こんな孤島に一人で引きこもっているつもりだ」


 水掻きがある片腕を三メートルほど伸ばして、食べ物を取った睡蓮が言った。

「余計なお世話だ……おまえが、アリアンロード第十三将になったからって、どうしてオレまでアリアンロードの将にならないといけないんだ」

 アリアンロード第十三将・次元怪盗『テルミン』が言った。

「友として見捨てておけないから……と、いう理由だけじゃダメか」


 睡蓮はテルミンに無言で甲羅の背中を向けて、座り込んで食べ物を食べている。

 精神爆弾魔──睡蓮が直接手で触れた相手の精神に、心を破壊する時限爆弾を忍び込ませる能力に本格的に目覚めたのは三歳の時だった。

 まだ、制御できなかったその能力に睡蓮自身も恐れ、ガラッパ星人の村人も睡蓮を避けた。

 睡蓮の家族も、睡蓮を別室に隔離して近づかなかった。

 両親から抱き締めてもらった記憶も、友だちと手をつないで歩いた記憶も睡蓮には無かった。


 テルミンに背を向けて座っている睡蓮が言った。

「オレは何人も精神爆弾で殺した……意味なく村を襲撃してきた、同じガラッパ人のテロリスト集団を一人残らず殺した……テロリストの中には、オレとさほど年齢も違わない子供の兵士もいた」


 睡蓮が子供の頃、なんの前触れもなく武装したテロリスト集団が村を襲った。

 睡蓮の家族もテロリストの犠牲になった。

「後からわかったのだが、テロリストたちは政府が軍事物資を保管している村と勘違いをして、オレの村を襲ったらしい……迷惑な話しさ」


 村人が虐殺される現場を目の当たりにした子供の睡蓮は、逆上して水から水へ移動できる特殊能力を使って、一人残らずテロリストを精神爆弾で廃人に変えた……テロリストの少年兵も、逆上した感情の制御がまだできなかった幼い睡蓮は、容赦なく廃人に変えた。


 テロリストを一人で壊滅させた、その事件後……特殊な能力を危険視された子供の睡蓮は、施設に隔離され……そこで、同じように隔離保護をされていたテルミンと出会った。

 

 回想の終わった睡蓮は立ち上がると、両手首に外して置いた金属の『自戒の腕輪』をはめて、スイッチを入れる。

 自在ビームの鎖が腕輪同士を繋ぐ。


 ここで、小屋の外から覗いていた第四の壁越え女神ロヴンが、振り返って読者に話しかけてきた。

「『自戒の腕輪』とか『自戒腕輪』と呼ばれている修行アイテムは、腕を左右に広げてもビーム鎖は伸びるので拘束感は無いですけれど、精神的な修行をする僧侶には戒めとして愛用されています……ビーム鎖の長さは自由な長さに設定可能です。

引き合う磁石みたいに後ろ手設定にしておけば、常に後ろ手で強制生活するコトも可能です……物語の続きをどうぞ」


 テルミンからの、アリアンロードの将への誘いを拒否する睡蓮が、テルミンに言った。

「オレは、威張り腐った権力者や、鼻持ちならない金持ちが嫌いだ……アリアンロードの将になんかならない」

「おまえが、いくら拒否しても。オレが推薦した限りは美鬼さまの方から、おまえに会いに来る……美鬼・アリアンロードとは、そういう人物だ」

 テルミンの言葉通り翌日、美鬼・アリアンロードが第三将・美神アズラエルを連れて、睡蓮の前に現れた。

「きょほほほっ、あなたがテルミンから聞いた『戒めの睡蓮』ですわね……きょほほほっ、テルミンの推薦なら間違いないですわ」

 睡蓮は内心、よく笑うバカ女だと思った。

 無愛想いな口調で、睡蓮が美鬼に言った。

「オレは、金持ちと権力者が嫌いだ」

「奇遇ですわね……わたくしも鼻持ちならない、威張り腐った権力者には反吐が出ますわ」

 睡蓮は頭頂の複眼一つ目で、美鬼・アリアンロードを見ながら。

(変わったヤツ)だと思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る