アリアンロード第十五の将と美鬼・アリアンロードの出会い

 朽ちる鉄錆び小惑星にて……

 銀牙系の、とある静かな小惑星──鉄錆び色の赤い小惑星にあるのは、赤茶色をした濁った水と、丈が低い赤い植物、アメーバのような微生物、それとわずかな空気だけだった。


 その小惑星の大地に半分以上埋もれている、超弩級の巨大宇宙戦艦があった。

 地面に出ているのは艦首と艦橋部分の一部、一見すると廃棄処分された宇宙戦艦に見えるが…… 自立型人工知能を内蔵した、戦闘兵器は残量エネルギーを最低限のスリープモードに切りかえて長い歳月を過ごしてきた。

 その超弩級の巨大宇宙戦艦に終焉しゅうえんが近づきつつあった。


(このまま……朽ちて、エネルギーが尽きて……終りか)

 自立型人工知能を持つ捨てられた兵器は、星の輝きを眺める……もう、どのくらいの期間、眺め続けてきたのかわからない。

(ボクは……どこから来た……なぜ、棄てられた……ボクは誰だ? ボクはなぜ造られた?)

 自分の名前さえも失われた、巨大宇宙戦艦のメモリーに微かに残っているのは戦いの記録。


 師団に匹敵する数の陸・海・空・宇宙の戦艦や空母を艦内に搭載して戦場で敵を撲滅して、味方を勝利に導き帰還した時の、人々の賛美と凱旋歓声──その遠い記録を懐かしむように、超弩級の巨大宇宙戦艦は繰り返し思い出していた。

(もう誰もボクを必要としない……あと一日で、エネルギーも完全に尽きる)


 誰も必要としない、名前も忘れ去られた戦闘兵器──超弩級の巨大宇宙戦艦は、数時間前から小惑星に近づいてくる帆船型の小型宇宙船と、その帆船型宇宙船が出てきた衛星級宇宙船の存在に気づいていた。


 ここで、銀牙系とは異なる第四の壁宇宙側から、宇宙服を着てフワフワと宇宙空間に漂っているロヴンが壁越えをして読者にナビゲートしてきた。

「ついに、宇宙にまで来ちゃいました……小惑星近くに現れた衛星級宇宙船は【ナラカ号】帆船型の宇宙船は美鬼・アリアンロードが惑星下降時に愛用している【黒きナグルファル号】ですね」


 やがて、埋もれている超弩級の巨大宇宙戦艦の前に、性悪女『美鬼・アリアンロード』とアリアンロード第一将・軍人ゲシュタルトンが現れた。

 口元を酸素マスクで覆った、ゲシュタルトンが言った。

「美鬼さまも、酸素マスクを装着してください……この小惑星は、ひどく大気の状態が悪い」

「きょほほほ、わたくしは平気ですわ。むしろ快適なくらいですわ」

 超弩級の巨大宇宙戦艦に近づいた美鬼は、艦の表面を撫でる、重なり付着した赤い錆び色の塊が剥がれ落ちる。


 ゲシュタルトンが、続けて言った。

「噂は本当でしたな……赤錆び色の小惑星に、別宇宙から廃棄された超巨大戦艦が、長年埋もれているという噂は」

「ゲシュタルト、この宇宙戦艦は動きますかしら?」

「たぶん、ムリでしょうな放置されて、エネルギーも尽きているでしょうし」


 美鬼が、超弩級の巨大宇宙戦艦を見上げて問うような口調で言った。

「もしも、まだ動いて、わたくしの為に働きたいのなら示しなさい……その強い気持ちがあるのなら、アリアンロード第十五番目の将として迎えますわ……きょほほほっ」


 超弩級の巨大宇宙戦艦は、突然現れた奇妙な女の言動に戸惑いを感じていた。

(ボクを必要としている? 自分自身がわからないボクを?)


 美鬼・アリアンロードが続けてしゃべる。

「自己紹介がまだでしたわね、わたくしの名前は『美鬼・アリアンロード』銀牙系一番の性悪女ですわ……さあ、どうしますか」

「美鬼さま、エネルギーが尽きた巨大戦艦にそのようなコトをいくら訊ねられても」


 その時、超弩級の巨大宇宙戦艦の艦橋がボウッと燐光を放つ。それを見て驚くゲシュタルトン。

「美鬼さまの言葉に応えた!? まさか、自立型人工知能の戦艦?」

 美鬼が高らかに笑う。

「きょほほほほほほっ、アリアンロード十五番目の将の誕生ですわ……ゲシュタルトン、誕生日プレゼントに巨大戦艦に高エネルギー注入をしてあげなさい……そう言えば、この超弩級の巨大宇宙戦艦はなんて名前ですの?」

「名前など無いでしょう……別宇宙の兵器ですから」


「では、名付けてあげましょう……『幻龍』……あなたは今日から、アリアンロード第十五将『武者駆逐戦艦・幻龍』ですわ……きょほほほほほほほほほっ」

 自分を必要としてくれる美鬼の笑い声に喜び応えるように、幻龍は艦橋から強い燐光を放った。



 朽ちる鉄錆び小惑星にて……~おわり~

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