第五雨

圭に抱かれて運ばれ、ソファへと下ろされた私は、美形が怒ると怖さが尋常ではない、ということを実体験として知ることになった。


「ねぇ、葵。なんで俺を追い出したの?」

「ぇ.........」

「え?えってなーに?もしかして男の名前?おかしいな、ここ三ヶ月葵を変な目で見た奴らも葵に嫌がらせする奴らも全員潰したはずなんだけどなぁ?」


下ろされてから、圭の瞳は私のそれに合わせられたまま動かない。

深い蒼の奥に閃く仄暗い独占欲や嫉妬、執着を。

こわいと思う私がいるけれど、惹きつけられてしまった私もいて。

どうしたら機嫌を直してくれるのか分からなくて名前を言おうとすればかすれ、勘違いさせてしまう始末。なんと無様な。.........なんか最近上司も同僚も入れ替わりが激しいと思っていたら、原因は圭なのか?なんてタイミングで新事実を知ってしまったのだろう。

これは、ちょっとだけ。ほんのちょっとだけだから、期待しても、良いよね?


「ぁ、あのね、圭」

「なぁに?ああ、もし他の男好きになったとかだったら即刻そいつ社会的に消すから」

「いや、圭みたいな完璧なイケメンに勝てる男は知り合いに居ないから安心してくれて良いよ。.........でも、圭は格好良いから。私より綺麗な女の人なんて、よりどりみどりだよね」

「え?」

「えっと、かくかくしかじかで........」

「っは、なるほど。そういう事か、ふふっ、あははは」


眼からハイライトを消して話を聞いていた圭が唐突に笑い出し、私は面食らってつい詰問してしまう。


「圭、私は、そんな圭を見て、隣に居られないって思って........っ!あのひとは、圭のなんなの?私がなんかが彼女で、圭は良いの?あっちが本命?私なんて........私なんて、こんな地味で、圭に言えてないことだってあって、確かに相応しくないかもしれないけど、私は圭のことが好きなの。圭はどうなの??」


興奮していたせいで同じことを2回くらい言った気もするが、まぁ良いだろう。私は圭のことが好きで、ずっと隠してきた正体を晒しても良いかもしれないってくらい大好きで、嘘をつきたくなくて、でも嫌われるかもしれないって怖くて。この苦悩をわかって欲しかった。

なのに圭は、目尻に涙すら浮かべながら笑っていたのだ。そしてその涙を拭きながら、私の手をとり、こてん、と頭を傾げて頬をつけ、上目遣いをしてくる。


「っふふ........あのね、葵。」

「なによ?」

「あれね、俺の母親。」

「はぁぁぁ?! え、あの綺麗なひとが?!」

「そうそう。 歳は言っちゃうと多分半殺しくらいにはされるから、言えないけどね」


なんと、あの綺麗な、大人の女性って感じのお姉さんが、圭のような歳の子持ちとは。

色々あるんだなぁ........

と、ぼんやり考えていたら、追い討ちをかけられる。


「で? 葵が、俺に言えてないことって、何かな?」

「ああああああ、それは、忘れて........!!」

「俺、葵に誤解されて追い出されてずぶ濡れで待ってたのになー??」


ここぞとばかりに私のしたことを言い、私を悪者にしようとする圭。最後のやつは自己責任だと思うんだけど?

まぁ、良いか。


誤解が解け、私が混乱している間に抱きしめられていたので、お願いして解いてもらって、ソファに座る圭の目の前に立つ。


「........よく、見ててね。」


圭が唾を飲み込む、ゴクリ、という音が聞こえた気がして。





それから、ひとつ、ふたつ、息をして。

私は、を解いた。






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ぶわぁ、と羽根が巻き上がる。


純白の羽根が舞い踊る中、同じく純白しろの着物の裾を翻して翼を畳んだ私の髪は、眩く輝く銀色になっている。瞳も同じ色に染まっているはずなので、全身白っぽい、日本人離れした外見になっているはずだ。


ひとつに結んだ髪をふわふわと漂わせながら、私は圭に微笑んだ。








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ごめんなさい。

更新すごく遅れました。


読んでくださる皆様、いつもありがとうございます。

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雨の降る街 時雨飴 @sigure_rain_

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