第四雨
「ま、待って........」
「へ?」
「待ってって、言ってるのっ.........」
控えめに掴んだ圭の袖口をくんっと引っ張って、そっぽを向きつつ言う。あぁ今、私絶対真っ赤になってる。唐突な私の行動に驚いたようで目を見開き、じいっと覗き込んでくる圭の視線に耐えられない。
「ね、ねぇ。」
「........ぇ、圭、は。私のこと、好き、なの?」
不安そうな言葉に、黙っていられなくなって。
過去最高に赤くなった顔を逸らしながら、ぽつりぽつりと問いかけた。
「うん、大好き。」
「ほんとに........?」
「もちろん!僕が嘘つくと思う??」
「思わない、けど」
「本当に、大好きだよ葵。僕の全てを君に捧げる。」
さらりとそんなことを言える圭はずるい、と思いながら、私は。肺に空気を送り込み、声帯を震わせた。
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「ねぇ今日って晩ご飯なに~?」
「明太子スパゲッティだよ、っと。はいお弁当、食べたら連絡してね?」
「やった!分かってるよ、行ってくるね?」
「はーい、いってらっしゃい。」
付き合い始めて三
私が、拒んでしまうからだ。
もちろん、互いに20代も半ば。そういう雰囲気になったことが一度も無いと言えば噓になる。
でも。
可能性がほぼゼロだとと分かっていても、私のことが知られてしまうかもしれないのが、怖くて。
誰かに付け入る隙を、与えてしまったのかもしれない。
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それは、晴れた空に細い雨の降る、いわゆる狐の嫁入りが行われていた日だった。
その日に限って社の近くの百貨店に居たのが悪かったのか、否か。
気分よく買い物をしていた私は、周りの人々がざわつき始めたのに気が付いた。
人垣の方へ近づいてみれば、人々はとある2人の男女を遠巻きに囲んでいたことがわかった。
「ありゃ、すごいべっぴんさんだねぇ」
「モデルかなんかか?」
「隣の男の人もめちゃくちゃ格好良くない⁈」
「まさにお似合い、って感じだよね、美男美女で」
誰なのだろう、と普段はしないことをしたのも悪手だった。
そこにいたのは。
紛れもなく私の彼氏の、
彼はとても楽しそうな、私にも見せたことのない顔をして、ジュエリーショップへ入って行った。
そこからどうやって家に帰ったのか全く覚えていない。
茫然自失してベッドに倒れこみ、そのまま眠ったらしい。
翌朝起きれば、圭が朝ご飯を作っていた。
「あ、やっと起きたね葵、朝ご飯が.........」
「要らない。圭も要らない。出てって。」
「え?」
「出てって。」
「え、俺なんかしちゃった?なに、どこがだめだった?」
「.........」
もう嫌だ。他の女に浮気した圭となんて、一秒たりとも一緒に居たくない。嫌だ、嫌いだ、私の視界に、入って来ないでっ.........!
バタン、と扉の閉まる音で我に返った私は、ただその場に崩れ落ちた。
----❖----
それから一週間。彼と出会ってから3ヶ月の過ぎた、大粒の雨が降る日。抜け殻のように惰性だけで生きていた私は、さっきからピンポンピンポンとうるさいインターフォンを止めるべく、来客に出た。
「はーい、うちは新聞は取りませんよ、って.........え?」
視界一杯に広がる赤色。どうやら薔薇のようだ、甘くて妖艶な香りがする。
じゃ、なくて。こんな洒落たことをするような知り合いは、一人しかいない。
「圭、私出てってって言ったよね?なんでまた来るのっ⁇」
「葵は確かに言ったけど。俺は了承してないし、突然そんなこと言われても、離れるなんて無理だから。まず入らせてくれないかな?葵がなんで俺を拒否したのか、教えてくれるまで帰らないから。」
ぐいぐいと押してきて、ついでに逃げ場を奪って、なくしてしまう。
圭のことを、怖いと。おとこのひとが本気になったら、女なんて抵抗すらさせてもらえないんだと。びしょぬれの腕に抱き上げられ、あっという間に横抱きにされて運ばれる間、真剣なその蒼色を見つめながら、滴る水滴に濡れながら、.........どうしようもなく跳ねる心臓を持て余しながら、私の知らない獰猛な圭に魅せられていた。
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ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
時雨飴です。
ちょっとこの後が長くなりそうだったので今回はここで切らせて頂きます。ごめんなさい。
応援や評価をくださってる方々、凄く嬉しいです。ありがとうございます!!
さて、私事にはなりますが少々書く時間が取れず、更新を3日に1度ほどにしたいと思います。初めての小説で初っ端からこんな体たらく。お恥ずかしい限りですが、 何卒このまま........お読みくださいませ........
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