第9話 女のくせに
「また、この場に相応しくないクランが重要な会議の席についているぞ」
「女のくせに、生意気そうに席に座りやがって。まったく恥を知れ」
「……」
僕とレオノールは今、冒険者ギルドの建物の中にある会議室に来ていた。今日は、定期的に行われている冒険者ギルドのクラン会合が行われる。
僕らの他にも多数のクランから、クランマスターと副クランマスターを務めている冒険者たちが集まっていて、各々で雑談していた。
多くのクランマスターと冒険者たちが部屋の中に集まっている状況だというのに、小声だけどハッキリと聞こえるボリュームで誹謗中傷してきた者たちが居る。
フレーダーマウスという集団のクランマスターをしている男、ドラゴンバスターのクランマスターをしている男たち2人。
彼らは顔を寄せ合い、小声で話し合っている。だけど、僕の耳にはバッチリ内容が聞こえていた。というか、会議室の中に居る他の皆にも聞こえているだろう。
全く無意味な小声だ。おそらく、わざとだろうな。
そんな彼らは、会合の席に座っているクランマスターのレオノールに忌々しそうな視線を向けて、誹謗するような言葉を口にしていた。
嫌味を言っているクランマスターは、既に50歳も超えるほど経験豊富なベテラン冒険者である。
そんな歳になってもまだ人を馬鹿にする態度をとってくる奴らに呆れてしまった。そんな人物をクランマスターに据えているメンバーにも、馬鹿なんじゃないのかと、内心で思っていた。
彼らは、小声で何度も”女のくせに”と悪口を言っている。
この部屋の中には、レオノール以外に女性は居なかった。他のクランマスターと、副クランマスターということは、明らかに彼女を指して中傷している言葉だった。
……いや、周りから見れば性別を偽装している僕も女性だと思われているだろう。だから、僕も含めた言葉なのかもしれないけれど。
でも僕は今、戦乙女クランの副クランマスターとしてレオノールが座っている席の後ろに控えるようにして立っている。なので、席に座りやがって、という男が発した言葉には当てはまらないだろう。
やはり、彼らのターゲットはレオノールのようだった。
レオノールや戦乙女クランのメンバーを傷つけるようなことを言う無礼な奴らに、僕は少しムッとした。誹謗中傷してくる彼らに言い返してやろうとした直前、彼女に止められた。
「ギル、怒る必要はないぞ。駄犬が無駄吠えしているだけなんだから。我々はただ、結果を示せば良いだけだよ」
不敵な笑みを浮かべて前を向いたまま、堂々とした態度で言い放ったレオノール。僕に向けた言葉ではあったものの、大きな声でその場にいる全員にも聞こえるほどのボリュームだった。明らかな挑発行為である。
「駄犬だと! き、貴様は我らを愚弄する気か?」
「愚弄? 駄犬が吠えていると言っただけですが」
フレーダーマウスのクランマスターが、イスを倒しながら勢いよく立ち上がった。そして、レオノールに指差して怒る。それを、涼し気な顔で適当に流すレオノール。どちらが上なのか、明らかだろう。
「フッ、我らフレーダーマウスとドラゴンバスターの二大クラン、その歴史と実績を知らぬようだな」
「ならば、冒険者らしく腕くらべでもしましょうか? 生死は問わない真剣勝負を。それで周囲に実力を示すことが出来るでしょう。さぁどうします? ここに居る皆に駄犬ではない、という事を証明して見せて下さいな」
簡単な挑発に乗ってきた彼らを、心底バカにしたような口調で勝負を挑もうとするレオノール。もちろん彼女は少しも負けるつもりなんて無く、相手を返り討ちにして殺すつもりの真剣勝負を望んでいた。
「ぐっ……」
「……」
彼女の本気度を悟ったのだろうか、男たちは口を閉じた。ベテランの冒険者らしく危険察知能力はそれなりに備わっていたのだろう。ただ、とても悔しそうだが。
レオノールの挑発に対して口を閉じ、視線を逸した彼らはもう何も言わなかった。毎回のギルド会合で同じように絡んできて、同じような展開で引き下がるんだから。いい加減、そろそろ学習して突っかかってくるのは止めたらいいのにと僕は思う。
毎回、僕は苛ついてしまうから挑発するのを止めて欲しい。
【未完】戦乙女クランの男の娘~男子禁制のクランに所属している僕は脱退したいと訴える~ キョウキョウ @kyoukyou
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