第8話 戦乙女クランの成り立ち
レオノールが戦乙女というクランを立ち上げたのは、女性の地位を向上させる為にという目的があった。
男性の力を借りることなく、女性だけで生きていくための力を手に入れる。その手助けが出来るような組織を作りたい。
そんな理想を思い描いているんだと、村に住んでいた頃に彼女は僕に語った。
昔から、女性だけで組む冒険者パーティーというのは存在していたらしい。だが、ものすごく珍しいと言われるぐらいには稀だった。
基本的に、男性と比べて女性の冒険者は体力や筋力などが劣っていると言われる。戦闘に不向きだというのが共通認識だった。実は、そんな事はないのだが。女性でも鍛えたら闘うことが出来る。体力や筋力は男性よりも不利かもしれないが、俊敏性や技術の習得の早さは女性の方が有利、という場合もよくあった。
それなのに、なぜか女性は弱いというイメージは根強い。
女性だけでパーティーを組むと、珍しさや色々な理由でターゲットにされやすい。自衛できずに、周りから向けられる悪意によって女性パーティーは壊されてきた。
その常識を壊したい。
女性だけ集めて、男性は加入を拒否する。クランに加入するための、特殊な条件を設けている所は、過去に存在していなかった。
そんな状況の中、レオノールという人並み外れたカリスマ性を持つ女性が現れて、新たなクランを立ち上げた。
女性でありながら能力も飛び抜けていた彼女が先頭に立ち、女性だけが加入できる特別なクランを。
そしてなぜか僕も、女性だけのクランに加入させられた。
「僕、男なんだけど。男性は、加入しちゃダメなんじゃないの?」
「ギルは特別だ」
「女性のためのクランなのに男性が居るだなんてバレたら、色々と問題になるんじゃないの?」
「バレなかったら、別にいいさ。ここに居るのは、女性だけ。世間がそう思ったなら何も問題はない」
色々と破綻しているような気もするけれど、レオノールはバレなければ別にいいと考えているらしい。目的を達成するためなら、少しぐらいズルしても良いだろう、と思っている。
「ギルは、私を助けてくれないのか? あの約束は、嘘だったのか!?」
「ッ! わ、わかったよ! だから、そんな悲しい顔をしないでよ」
「ありがとう、ギル!」
結局、僕はレオノールの泣き落としでクランのメンバーに加入することとなった。僕は、彼女の涙に弱い。そして、嬉しそうな笑顔にも弱かった。
戦乙女と名付けられたクランを立ち上げた当初、周りから色々と言われて批判的な意見もかなり多かった。それでも、レオノールと立ち上げに関わったメンバーたちは周囲の悪意に負けることなく、冒険者の活動を続けた。
「言いたいやつには、勝手に言わせておけばいい」
レオノールはそう言って、周囲の意見なんて気にも留めずに戦乙女クランの運営を続けた。冒険者ギルドから依頼される仕事を確実に達成していって、数多くの実績を積んだ。
徐々に、戦乙女クランは評判を上げていく。すると、能力の高い女性冒険者たちが噂を聞いて、クランへの加入希望で訪ねてくるようになった。
彼女たちは、今までは色々と我慢してきたけれど、もう無理だと思って男尊女卑の思想が強いパーティーから抜けてきた冒険者。
戦乙女クランは、そんな冒険者を歓迎した。
そして今では、戦乙女というクランは王都でも名の知れた女性冒険者集団となっていた。
数多くあるクランの中でも一番多くの実績を積み、優れた結果を残しているクランとして王国中で知られている。
それなのに、この世の中には凝り固まった思考で女性冒険者の集団だというだけで批判する連中は、まだまだ沢山居る。
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