物語をもって歴史を語ることの功罪

 人類が異能者と無能者にはっきり分かれる世界、その歴史を大学の授業の形式で描いたお話。

 架空の世界の架空の歴史を描いた異世界ファンタジーです。
 ある種のシミュレーションというか、物語世界の成り立ちを概論的に紹介してくれる内容で、もう見ているだけでワクワクしてしまうものがあります。個人としての人間の機微のようなものは一切なくとも、大きな群れとしての人の動きだけで面白い物語。

 お話として面白いのは読者として嬉しいばかりなのですが、でも「もし自分がこの講義を受ける学生だったら」と思って読んだときに、その面白さがある種の脅威として感じられてしまうところがもう本当に好きです。

 物事の理路が整然としている、「わかりやすくて面白い歴史」というものの恐ろしさ。面白いばかりに校正が効かないというか、するする飲み込んでしまうこの自分の現金な受容の仕方に、なんだか薄ら寒いものを感じてしまう感覚が最高でした。

 できるだけ重箱の隅をつつき回しながら見るつもりが、すっかり普通に乗せられてしまっているこの感じ。
 単純に面白く、故に面白さの持つ弊害のようなものまで感じさせてくれる作品でした。最後の結びというか大オチの部分も好きです。