異能歴史学入門(教養科目・2単位)

只野夢窮

はじめに

 最初に、一点だけお断りさせていただこう。

 異能を持たない人間のことを、この講義では「無能者」と呼ぶ。この呼び方に議論があることは知っているし、私自身は異能者だが、異能がないからと言ってその人が無能だとも思わない。私に言わせれば無能と言うのは能力がないというよりもむしろ理解力が低い人のことだね。雷を自在に操る強力な異能があっても、その重大性を理解せずにスマホの充電にだけ使っている学生を私は見たことがあるよ。そんなやつがどんな異能を持ってたって宝の持ち腐れさ。寮の談話室では相当人気者だったけどね。

 話を戻そう。けれども無能者というのは単に蔑視的な呼び方であるだけではなく、定着した歴史用語だ。また後程触れるが、歴史上異能を持たない人間たちが「無能者」と自称してアイデンティティとしたケースもある。つまり、問題は単純に嫌な気分になる、と言うレベルではなく、歴史的に複雑な経緯があり、そうであるからには、私はこの用語を用いて講義を行う。もし不愉快ならば今すぐ出て行ってもらっても構わない。幸いこれは教養科目だから、今なら別の授業を取れば単位の埋め合わせはできるだろう。それに、私は論争があるなら、説明しないよりもむしろ論争があることを教えたい。それをどう判断するかは君次第だ。優秀な学友たちや経験と知識のある教授たちに質問したっていい。君が判断するための最高の資料と学術空間が、ここローゼンエルタール自治大学領にはある。

 それでは、さっそく一時間目の講義を始めようか。

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