なんで、この時代に、そんなモノを買わなきゃいけなんだよ
「ねぇ、何で、昔の曲しか無いの? 一番最近のでも
僕は、音楽配信業者の営業さんにそう聞いた。
「音楽配信業者」と言っても、いわゆる「サブスク」ではない。商店・接客業向けのサービスだ。
「一応、最近の曲を集めたチャンネルも有るんですけど……他のお客さんから不評で、あんまりオススメ出来ないんですよ」
当時、ボクが店長をやっている喫茶店の常連のお客さんが言ってた、あの「陰謀論」を半信半疑で聞いていた。
いや、信が1%未満で、疑が99%以上だ。一応、信じたフリはしていたが。
だが、現実は……あの伝染病のワクチンを打つと……ナノマシンが脳内に電子回路を作り、携帯電話用の電波を受信出来るようになる……その与太話が本当だったのだ。
そして、世の中は、あっさり変った。
やがて、あの伝染病の流行は終り……「脳内端末」の普及で、かつてとは違った世界ではあるが……一応の日常は戻った。
いつしか、地元の自治体や商店会が、最近流行っている脳内端末用のゲームとのコラボを始め、ウチの店でもコラボメニューを出すようになり、若いお客さんも増えるようになった。
けど……問題が有った。
若いお客さんは、昔のジャズなんて聞かないよなぁ……。店内に流れるBGMを聞きながら、そう思う事が多くなった。
「ほら、だから、駄目だって言ったでしょ」
音楽配信業者の営業さんが言ってた「最近の曲を集めたチャンネル」に切り替えた途端……ミュージシャン志望のバイトの女の子が、そう指摘した。
全く、その指摘は正しい。
聞けたモノでは無い。
「あの……ホントに、若い人の間で、こんな酷い曲が流行ってるの?」
「だから……最近の曲って、CD出さずにサブスクで配信するのが普通ですよね。なので、そう云う場合、普通は
「えっ?」
「だから、実際に耳で聞いたら……こんな事になるんですよ。いや、イヤフォンやヘッドフォンで聞いたら、多少はマシなんですけどね」
「い……いや……でも、近くのショッピング・モールで最近の子供向けアニメの主題歌が流れてなかったっけ?」
「あの……あれって、かなり高価な業務用の機器を買えるところじゃないと無理なんですよ」
「へっ? どう云う事?」
「でも……出せる値段が1〜2桁少なくて済む代替手段なら……」
「本当は、針の代わりにレーザーを使うタイプの方が理想的なんですけど……あの予算だと、これが限界ですね」
ミュージシャン志望のバイトの子は手馴れた様子で、届いたそれを店内に設置していた。
「あ……あの……本当に……その?」
「ええ、最近のミュージシャンって、新曲は、サブスク配信とこれの両方って場合が増えてるんですよ。で、こっちの場合は、サブスク配信用とは調整のやり方が違うんで、スピーカーから流れても大丈夫なんですよ」
そう言って、バイトの子が見せた「それ」らは……ほぼ正方形の薄い紙のケースだった。
ざっと、大きさは、約三〇㎝四方のモノと二〇㎝四方のモノの2種類。
別の言い方をするなら……
その薄い紙のケースに印刷されているのは……ボクでも名前ぐらいは聞いた事が有る韓流アイドル・グループの写真やアニメやゲームのキャラらしき絵。
駄目だ……ボクも、すっかり、おじさんになったようだ……。
もう、若い子の考える事は理解出来ない。
どうやら、脳内端末用のゲームの主題歌らしい曲を奏で始めたのは……
あの陰謀論が「真実」だった世界 @HasumiChouji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。あの陰謀論が「真実」だった世界の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます