謁見2

「して、お前が大嫉蛇を倒した若者か」


「はい」


 僕は王様と謁見していた。王の間に入り、形式に則った礼をして跪いて頭を垂れる。立派な装飾をあしらった玉座に座るのはネジアールの王様「ネジアール・リンピア」本人だった。その隣には大臣らしき人が立っていた。普通の市民は顔も見れないような人物である王。僕は一つのミスもないように加護の知識を総動員していた。


「顔をあげよ、若者。そなたの立ち振る舞い、さては市民ではあるまい。そこらの大臣より礼儀がなっておる」


「顔を上げることをお許しいただき有難うございます。しかし、私は一般の市民です」


 僕は顔を上げて王の顔を見た。60を超えようとするその顔には深いしわが刻まれており、そのしわの数だけ苦労を乗り越えてきたことが分かる。白が混じった髪は長く、荘厳な雰囲気を醸し出していた。これが王、その手にはこの国の全権が握られていて誰でも屈服させるような鋭い眼を持っている。


 僕は声が震えないように精一杯だった。


「……この王に虚偽とは肝の据わった若者だな、しかし身分などはどうでも良い。若者よ罪業を倒してまいれ、そして指輪を完成させよ」


 女神様に言われたドラゴンキングの話はこの世界での常識にも含まれていたみたいだった。そして、7つの罪業の宝石を埋め込んだ指輪を作ることでドラゴンキングを討伐する勇者を作ることを王が考えていることも市民が広くが知る常識だった。


「はい、謹んでお受けいたします」


「肝は座りすぎて不気味な程だな。普通の騎士なら切り殺されても拒否するほどなのにな」


 ハゲワシを連想させる獰猛な目をニヤリと歪めて王は笑う。


「面白い若者だ。よし、全ての許可証を与えよう」


 すると、隣に控えていた大臣が慌てたように王を見つめた。


「王様。全ての許可証ですか? 各関所の通行などは理解できます、しかし」


「王の目を疑うと?」


「め、滅相もございません」


 大臣は見ていて可哀そうなぐらいに委縮していた。あんな目で睨めれたら誰だってそうなってしまう。


「しかし、お前の言うことも一理はある。よし分かった、騎士団長を指輪作りの旅に参加させよう。何かあったら切れ。それで構わないな?」


 騎士団長には目もくれず王は勝手に決めてしまったようだった。それに対して頭をいまだに垂れていたデレートは顔を上げて震えながらも声を発する。


「ま、待って下さい。私がこの者と一緒に罪業を倒す旅に出るのですか?」


「そう言っただろう? 二度も同じ事を言わすな」


「しかし、私が居なければ騎士団は……」


 既に決定済みだと言わんばかりの王の態度にデレートは反論をしようとするがそれは王の言葉で遮られてしまった。


「罪業を倒せん騎士団など解体しても良いとは思うが? それとも貴様の鍛えた騎士団は長が世話をしないと瓦解するような幼子の集団なのか?」


「い、いえ」


 その言葉っきりデレートは最初のように頭を垂れる。王に見えないように下唇を噛んでいるのは僕だけが見えた。


「騎士団からは貴様が、それとは別に王の直属親衛隊から一人兵士を貸そう」


 王はそう言うと手を大きく叩き音を鳴らす。


 扉から入ってきたのは猿……ではなく顔の整った青年だった。


「ウキィ? ウキウキィ?」


「…………こんにちわ」


 加護の知識にはその人物の情報も載っている。目の前に立つ肌黒い青年の名前は「クロウド・ハンプ」。王直属親衛隊のナンバー2。クロウド・ハンプはそのルックスの良さを使い王の広告塔としても活動をしている。南の国出身特有の黒い肌や鋭利な目は鋭い性格のイケメンに見える。ルックスが良く実力も親衛隊の中で二番目。そのためファンもかなり多く、南の国出身の戦士に良く見られる頬に赤い線を引く習わしはこのネジアールでも流行になるほどに影響力は強い。断じて猿では無い。


 僕はネジアールで1,2を争う有名な人物に会えるとは思っていなかったので感動して言葉が詰まってしまった。


「ウキウキィ! ウキウキ」


「……ッス、ア、よろしくお願いします」


「では、若者よ許可証一式は今日中に用意させる。それまでこの町で待機し、発行され次第罪業集めに行け」


「騎士団長とナンバー2はこの後の引継ぎなどもあるだろうこの場に残れ」


 王は大義そうに僕らに命令を残し、立っていた大臣にぼそぼそと何か呟くと王の間の反対側にある自室に戻っていってしまった。


 王の間には少し弛緩したような空気が流れる。


 僕は礼儀を欠くことなくホッとした。そして、そのまま王の間を後にして門の前に立っていた兵士の誘導で宿屋に向かった。許可証が発行するまでそこで時間を潰すことになることが告げられた。

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ジャイアント・フィクション 辛間 庶務 @karama

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