謁見
背中には決して寝心地が良いとは言えないベッドの感触がする。その感触が死んでいないことと背中が無事だったことを示している。
良かった。僕はまだ生きている。
普段の高校生活ならばこのまま二度寝してしまうところだけど、この世界ではそうもいかない。貰った冒険者としての知識が半覚醒の状態が一番危険だと囁いてくれる。さっさと目を覚ませと。
僕は目を開けた。
そこにはじっと僕の顔を覗き込んでいる女性が立っていた。その距離は彼女の大きな瞳に間抜け面の僕が写るくらいには近かった。
「うわっ!」
僕は慌てて飛び起きて距離を取る。
その女性は使い込まれた甲冑を着ていた。その甲冑にしな垂れるような赤い色の長髪がなんとも美しかった。しかし、顔は戦場を渡り歩いてきた影響かあまり……いや、そんなことはない。断じて無い。めちゃくちゃ美人でその表情は大きな身長と相まって凛として見えた。
「ようやく起きたか。王が会いたいと仰っている、すぐに身支度をして出てこい」
「あ、あの」
しかし、僕の言葉を無視してその女性は扉から出ていってしまった。
少しぐらい話を聞いてくれても良いのに。
簡素な部屋を見渡すと僕がいままで持っていた冒険者道具や服が纏めて置いてあった。黒光りするスマホもそのままだ。早く着替えをして、出ていかないとあの女性に申し訳ないような気持ちがして僕はそそくさと準備を始めた。
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僕が扉を出るとそこにはさっきの女性が腕を組んで壁に寄りかかって待っていた。僕が出てくると腕をほどいて僕の方に向いてくれる。
「もう準備は良いのか?」
「大丈夫です」
「では、着いてこい」
僕はその女性の隣を歩きながら着いていく。僕が寝かされていた場所は騎士団の部屋で今は王の間に向けて歩いているようだった。この世界での知識が僕に告げてくれる。この甲冑はこの世界での最大の国「ネジアール」の騎士団の甲冑で、それを着れる人物は屈強な人物に限られている。更に部屋の様式からネジアールの物でそれも豪華な様式、つまりここが王の住む城だとも分かる。
僕は無言で女騎士に着いて行くけどその沈黙が少し辛い。たまらず僕は質問をした。
「あの、お名前は何というのですか?」
「私の名前は小夏……いや、デレート・コロン・
「いい名前ですね!」
良い名前だ! うん、良い名前! 特にデレートが気に入ってその名前で呼ぶことにした。
「デレートさんは騎士の方ですか?」
「そうだ、こう見えても私はネジアールの騎士団長を務めさせてもらっている」
しかし、その誇らしげな表情を少し曇らせて眉を顰めた。
「あれ? 私は騎士団長か? 妹だった気が」
「そうなんですか、騎士団長とはすごいですね!」
デレートは困惑した顔はしておらず、はきはきと話始めた。
「そうだろう、最年少での騎士団長だ。特に女で騎士団長になるのは初めて……いや? そんなことを言うと何故か怒られる気がするな」
僕は今まで思っていた疑問をデレートにぶつける。
「ところで! 王は何故僕に会いたいと仰っているのですか?」
しかし、デレートは不機嫌そうにムッとすると簡素に言い放った。
「それは着けばわかる」
デレートの表情は何か大きなものが奪われた時のような表情をした。
僕はそれが凛としているデレートには似合わないとは思いながらも子供のように思えてしまって少し笑ってしまった。
「何を笑っている?」
「いえ、すいません」
そんな会話をしている内に王の間と思われる扉の前についた。扉には甲冑や槍を装備した屈強そうな兵士が直立不動でいる。その眼光は僕を睨んでいるようにも見えた。
「今から王の間に入る、くれぐれも失礼ないように。失礼した場合は切り殺されると思え」
「は、はい」
そうだ、ここは異世界。いきなり切り殺さても誰も助けてはくれない。気を引き締めなくては。
「よし、扉を開けてくれ」
門番達はデレートの声にうなずくと両開きの扉を開け放った。
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