第1話 寇掠(ベルトラン)

ガエタンの案内で、農村の垣根に沿って白く踏み固められた道を走っていくと、いくつかの家の屋根に隔てられたその向こうに、かろうじて教会の十字架が見えた。


煙と炎がベルトランと教会の間にある家々のてっぺんから立ち昇り、それらが十字架を見えにくくしている。


ベルトランたちが目指すところに近づくにつれ、風に乗って聞こえていた剣戟の音や男たちの怒鳴り声が一層大きくなり、そして集結の角笛がもう一度鳴った。


《急げ!急げ!急げ!》


角笛は告げていた。


ベルトランたち以外にも、何人かの騎兵や兵士が急ぎ足で、別々の道から同じ方向に集まってきていた。


普段ならば、村民が『お祈り』でもしにそこへ歩いた道だろうが、いまはそのどこにも死んだ人間や犬が転がっていて、カラスがそれらのにありつこうと、空中を舞っている。


「おおーい、ベルトラン様!」


ふいに、横合いからがかかった。


ベルトランとガエタンが足を止めて振り向くと、ケトルハットを被った男が二、三人の兵士と一緒に手前の柵を乗り越え、こちらに向かってきていた。


「無事でよかった、ベルトラン様、ガエタン」


革のアヴェンテイルを備えたケトルハットのふちの下で、白い顔に笑みを浮かべた男が近寄ってきて、ベルトランに話しかけた。


「こっちは、人数が一人減ってしまいました。エンゾが、腹に槍をぶちこまれてしまって。代わりに、殺したやつの頭は叩き割っておきましたが」


「そうか。やつはついてなかった」


ベルトランは答えた。


「レーモン、途中ではぐれてすまなかったな」


「めっそうもない。ところで、顔が腫れてますね。大丈夫ですか?」


レーモン——目の前の男は、穏やかにいった。


砂色の髪と鳶色の目を持ったこの男は、痩せていて、背丈はベルトランとほとんど変わらない。


レーモンの白い顔には、赤黒いシミのように血が点々とついていた。


「ああ、大丈夫だ。息はしてるさ」


ベルトランは浅く頷いて、それから思い出し、隣のガエタンに顔を向けた。


「そうだ、ガエタン、さっきのやつをレーモンに渡してやってくれ」


「ああ、これだな」


見ると、ガエタンは既に腰のベルトに手をやっていて、それを取り出していた。


「ベルトランの“戦利品”さ。いつも通り分けろってことだ」


に、ですか?」


レーモンは、ガエタンが手に持った、ベルトランが“死体”から得た膨らんだ茶色い革袋を見て、それからベルトランを見た。


「そうだ、にな」


ベルトランは頷いて、レーモンの目をじっと見た。


「承知しました」


彼は同じように頷いて、ガエタンから財布を受け取り、繰り返した。


「全員に」


「――もう行こうぜ。本隊が呼んでる」


ガエタンが声をかけた。


「かなりやばいんじゃないか」


確かに、角笛はまだ鳴っていた。


ベルトランたちを追い越して、5人ほどの歩兵が道を急いで駆けていく。


「そうだな。“角笛に続け”だ」


ベルトランは頷いた。


「――だが、その前に、ガエタン。あの連中を呼び止めろ。レーモン、ほかにクロスボウかなんか持った連中を、ちょっと集めろ。俺たちだと舐められるかもしれんから、親父の名前を使え。まだその辺に少しは残ってるかもしれん」


レーモンの肩越しに、弓を背負った自由騎手が一騎で駆けて来るのが見えた。


少し上り坂になったここからだと、教会へ続く他の道がだいたい見渡せる。


「後ろからも、あと少しくらい誰か来るかもな。俺は先に本隊の様子を見てくる。一人一緒に来い」

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西欧風ファンタジーなんてゾッとする!?>燃やし尽くせよ盗賊建国記! 友情は人生の塩である @boots_fleak001

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