第5話 自分のための露出

「そう考えると、セーラー服ってのは空力抵抗が大きいよな」


 アミが言った。今ユイが着ているセーラー服の大きな襟は、バサバサと風を受けて大きくなびいている。


「もしかして、この学生服にも学生の勉強を有利にする工夫とかがあって設計されていたりするかもしれぬな。先生の話が聞きやすくなるとか」


「いや、ないだろ」


「うむ。冗談でござる」


 ――実際のところ、セーラー服の襟を立てると、周囲の音を遮断して前方の音だけを拾えるという機能はある。

 もともとは水兵服だ。兵士が船の上で話をするとき、海風に邪魔されることなく指示を聞けるようにした工夫だったとする説がある。

 もっとも、それを理由に教育機関で広く採用されているわけではないだろうし、仮に全校集会で襟を立てようものなら、それが『校長先生の話を聞くため』だったとしても怒られそうだが。


「ところでユイ。お前の家、こっちだっけ?」


「む?……」


 話に夢中になってしまっていたが、そう言えば――


「あ、全然違う方向でござる」


「ダメじゃん」


「すまぬ。では拙者はこの辺で」


「どろん?」


「拙者は忍者ではござらぬよ!」


 くるりと器用に小回りを利かせ、ユイは今来た道を戻っていく。


「では、明日また学校で」


「おう」






 ユイと別れ、アミは一人で帰路につく。ここまで来たら、家まではもうすぐだ。


(ユイにはああ言ったけど、それにしても)


 と、アミは一人になったとき、ふと自分の格好を見る。

 確かにユイの言う通り、この格好は恥ずかしいかもしれない。少なくとも、学校帰りに公道を走る恰好としてはバリバリの恥ずかしさである。


(露出度だけの問題でもないだろうけどさ)


 実際、競技中は恥ずかしいと感じたことが無いし、競技場でならこの格好はやはり恥じるべきではなく、誇るべきだと思う。まあ、それとこれとは話が別なのだ。

 別に露出度の問題ではない。例えば水着の方が露出度が少ないとはいえ、「じゃあ今の格好で下校するのと水着で下校するのとどっちがいいか?」と問われれば答えは決まっている。誰が水着で街を走るか?


 そういう意味では、以前みんなと海水浴に行ったとき――与次郎に誘われたときだが――あの時に水着をわざわざ新調したのも、場所と状況に合わせた結果だった。

 ならば――


「やっぱアタシ、競技中はこの格好で間違ってないんだよな。……下校中は間違ってるけど」


 時々感じる異質な視線も、いびつな問題も――すべてを解決する方法なんか、自分の中にも生まれないのは分かっている。何を規制しても、あるいはどんな規制を排除しても、納得のいく答えなんか無い。それも分かっている。

 一つ言えることがあるとしたら――


「アタシは、この格好で走るのが好きだ」

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陸上だけでも無双できない少女。できれば服装くらいは最速でいたい 古城ろっく@感想大感謝祭!! @huruki-rock

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