『あい』とは
あれから2ヶ月が経った。
今日も僕は1人で病院に向かっていた。
結愛に会うために。
あの花火大会の後、結愛達は病院に運ばれた。結果、結愛だけが生き残った。
もちろん僕は重要参考人として警察に事情聴取されたが、どう受け答えしたかはよく覚えていない。
結局、雨によってDNAや指紋などの物的証拠が採れなかったため、僕と結愛は被害者という事で、この件は落ち着いた。
僕と結愛がした事は、2人だけの秘密
という事になった。
病室に入る。
結愛が笑顔で話しかけて来る。
「今日も来てくれたんだ、ありがとう。」
「結愛に万が一があったら不安だしね。それに、僕が入院している時も会えないのに毎日来てくれたし、そのお返しも込めてね。」
ふと、窓際を見た。
「あれ、あんな花束あったっけ。」
「あぁ、あれね。天野さんと阪井君がくれたの。天野さん、とても辛そうな顔してた。」
「まぁ、あんな事があったらそりゃね。」
波多野さんが亡くなった事を知ってから、天野さんは学校に来なくなっていた。僕も連絡を入れてみたが、返信は返ってきていなかった。
阪井も同じだった。僕は阪井の退院日から、1度も会っていないし、連絡も取っていない。いや、こちらからは何度か連絡をしているのだが、一向に返事が返ってきていなかった。
どうして2人は僕の連絡を返して来ないのだろうか。
「……ねぇ、ねぇってば。どうしたの?病院出てからずっと無言だよ?」
「え、あ、あぁごめん。」
気づけば僕達はいつもの帰り道を歩いていた。
「ちょっと、考え事してて。」
「そっか、まぁ仕方ないよね。あんな事があったし。」
彼女は少し笑顔で言った。
「そうだね。」
僕も少し笑って言う。
気づけば日が傾いていた。
しばらく歩いてから、僕は結愛に言った。
「あのさ、あの花火大会の時に、言い忘れてた事があるんだ。」
「なに?」
「僕と、付き合って欲しい。」
夕陽が彼女の顔を赤く染める。
いや、夕陽のせいだけでは無いのかも
しれない。
「私なんかで、いいの?」
彼女は少しうつむいて言う。
「私なんかと付き合って、また私が愛斗君の苦しんでる顔が好きになっちゃったら愛斗君をまた大変な目に合わせるかもしれない。
それでもいいの?」
僕は結愛を安心させるために笑顔で言った。
「もし結愛が僕の苦しんでる顔が欲しくなって僕を虐めたら、僕は結愛を目一杯殺すだけだよ。」
「だって、僕は結愛の事が殺したいほど好きなんだから。」
「そうだね。」
彼女は笑った。
それを見て僕も笑った。
異常性癖な彼女を何度も好きになっている。
自分でもよく分からない。
それにこんな愛の形があってもいいのかも全く分からない。それでも僕は彼女を好きになってしまった。
どうしようもないほどに。
もしこれが間違っていると言うのなら、僕の事を殺してくれたって構わない。それでも僕は彼女を愛すだろう。
僕と彼女は2人で歩いている。
僕は彼女を見つめる。
その時ふと、彼女の奥にいる誰かと目があった。
誰かは僕達の事をずっと見つめている。
その目は憎悪に満ちていた。
しかし、やがて僕は気づいた。
なるほど、そういうことか。
何も知らない彼女は笑顔で聞いてくる。
「どうしたの?顔に何かついてる?」
僕は笑顔で言う。
「いや、何でもないよ。」
【完】
『あい』とは ハレルヤ @Kubokakuu
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