榎本結愛とは
私は、夢を見ていた。
小学校の頃の夢だ。初めて、自分の異常さを知った、あの日の事だ。
桐嶋君は、とても苦しそうな顔をしていた。
見るに堪えない暴行を浴び、生死を彷徨っているような顔だ。
私は桐嶋君の事が好きだった。だから、桐嶋君に暴力を振るわないで欲しいと思って、思わず飛び出した。でも、彼の顔を見た途端、私は彼の苦しんでいる顔がとても好きだと
いう事に気づいた。
それから、私は狂ったように桐嶋君の苦しんでる顔を欲しがった。ある意味中毒だった。
坂東君達に嘘をついて、虐めさせた。
罪悪感はなかった。彼の苦しんでる顔が見たい、それだけだった。
しばらくして、桐嶋君は転校してしまった。
最初はなんとも思っていなかったが、徐々に罪悪感に苛まれるようになっていった。
私は、彼になんて酷い事をしてしまったのだろう。
やがて、私は知った。
私はサディストで、異常性癖の持ち主だという事を。
マイノリティに対して、周りからの風当たりは強かった。友達は私からどんどん離れていった。父は私が異常性癖の持ち主であることを知り、激怒した。母は私を庇ってくれたが、やがて両親は離婚した。
私は転校する事になった。
どうして父に言ってしまったのだろう。言わなければこんな事にはならなかったのかもしれない。
全部、私のせいだ。
私は転校してから毎日思い悩んだ。
自分の事が怖くなった。
それでも、私は変わろうとした。
私は普通になろうと努力した。普通に誰かを好きになる、そんな事に憧れた。
やがて、私は友達ができ、充実した生活を送れるようになった。
もう、あの異常な性癖も見られなくなっていた。
そんな時、私は桐嶋君に再び出会った。
奇跡としか言いようがなかった。
私は心のどこかで桐嶋君を求めていた。
私は、今度こそ桐嶋君に素直に自分の気持ちを伝えようと思った。今までの事を謝りたいとも思っていた。
しかし、それも叶わなかった。
織田君達に虐められてた桐嶋君の顔を見て、また私の異常性癖が目を覚ましたのだった。
私は苦しかった。私の気持ちを誰かに理解して欲しかった。共感して欲しかった。かといって、誰かに助けを求める事も出来なかった。
私は、独りだった。
でも、桐嶋君に刺されたとき、私は優しさを感じた。桐嶋君は私の気持ちに気付いてくれていたんだと、そう思った。
それが心から嬉しかった。
私の事を本当に理解してくれた人は彼が初めてだった。
こんな私を好きだと言ってくれて、私は本当に幸せだった。
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