第25話 下層
いつものように目覚めと共にこめかみに手をあてる。スリープモードになっていたXRDが復帰する。
《おはようございます。5月1日、午前7時36分。現在地の天気は晴れ、気温は18℃、予想最高気温は24℃です》
思い切り寝たいときは、XRDをスリープモードにして寝るんだけど、朝に復帰したときにある「ご挨拶」が結構うざい。
《241通のメッセージが届いています》
「プロモーションにフィルタされたものは削除して」
《187通のメッセージを削除しました》
「システムコール――メールボックス」
XRD越しに見える部屋の景色の中に、メールボックスが表示される。
特に読む必要がないものに次々とチェックを入れて削除すると、残ったメールは十数通だけだった。
それらのメールも返信が必要なものはすべて返し、内容を保存すべきものはフォルダに手作業で振り分けておく。
あとはいつものように食事し、スピンバイクで軽い運動を済ませたらアルステラにログインした。
アルステラにログインすると、採掘家ギルドにいた。
《おかえりなさいなのです》
ナビちゃんが待ち構えていたかのように話しかけてきた。
(ただいま)
《ログアウト前の状態を説明したほうがいいのです?》
(うん、まだ少し寝ぼけてる気がするから教えてくれるなら助かるよ)
《ギャザラー系の生産職、サブクエストはすべて完了済なのです。メインクエストと魔道具師ギルドのレベル20クエストが残っているのです。また、他の生産職への転職が残っているのです》
魔道具師ギルドのクエストは確か……ホバークラフトを作るって内容だよね。足りなかったホバーコアも手に入れたことだし魔道具師ギルドに行くのも悪くない。
でも、ずっと生産職ばかりやっているから少し飽き気味なんだよね。
私は採掘家ギルドを出て、通路へと踏み出した。
寝る前までは生産ギルドにはプレイヤーがたくさんいたと思うんだけど、今はどこかひっそりとしている。
「え、メンテナンス中?」
あまりにプレイヤーがいなくなっているので不安になり、つい声がでてしまった。とはいえ、その声を拾う人さえ辺りにはいなかった。
《メンテナンスはオンラインで行われるので関係がないのです。プレイヤーが減ったのは別の理由なのですよ》
(へえ……なんかあったのかな)
《し、知らないのです》
この返事は明らかに知っているんだろうけど、敢えて言わないようにしている感じだね。
とりあえず、運営から何かのメッセージが来ているわけではないのでイベント関係じゃないはず。
《今日は何をするのです?》
(寝る前に第4層を広範囲に調べたけれど、出口がわからなかったじゃない?)
《そうなのです》
(せっかくだし、第5層のボスを倒して、先に進めたいなって)
既に私のレベルは27になっている。
この町で受けられる職業ギルドのクエストの上限は25だから、ボスモンスターのレベルも25ていどと推定できる。
(じゃあ、午前中にダンジョン第5層まで行っちゃおうか)
《攻略なのですっ!》
視界の中央でナビちゃんがホバリングしながら右腕を高くつき上げた。
戦うのは私なんだけどな……。
生産ギルドを出て、一度ポータルコアのある広場にテレポで飛び、続けて北湖ダンジョンの入口へと移動する。
北湖ダンジョンの入口にも人は少なくて、「閑散としている」という言葉がピッタリ合う気がする。たぶん、これまで生産ギルドに人が集まっていたのと同じような理由――新たな攻略情報が公開されて皆がどこかに殺到しているからだと思う。
私が知っているものなら、冒険者のピアス、冒険者手帳の2つかな。
別に誰かに知られて困るものでもないから、あとで確認すればいいよね。
フロアポートを使って第4層に移動した。
地図を見る限り、第4層のマッピングも9割くらい終わっている。
寝る前に宝箱が出た場所の先に進めば、まだ未知のエリアがあることがわかるので、認識阻害(弱)と気配遮断をフル活用しながら先に進む。
5分ほど歩き続けたところで宝箱を見つけた場所に到着した。
知らずに期待していたけど、宝箱は消えてなくなっていた。
(残念……)
《他の場所に出るほうが確率的には高いのですよ》
同じ場所に出るようだと、宝箱のポップアップ待ちをするプレイヤーが出そうだからね。毎回、出現場所を変えるのは当然だと思う。
「この先は……」表示されている第4層のマップを見ながら、「下り坂になってる?」
マップでは少し先まで続くように見える通路なんだけど、下り坂になっていて奥深くまで続いているようにみえた。
《第4層は上層、下層に分かれているのですよ》
(なるほどお……)
第3層からの入口と、第5層への出口の間にある第4層が上下に分かれているっていうことね。考えてみると、第3層はアングラーがいる海岸からホバーボードで10分以上かかる場所に火山島がある。その広さから考えると第4層が狭く感じていたけれど、上下に分けることで広さを確保している感じなんだろうね。
「ギャギャッ!」
「グゴギョギャッ!」
壁に沿って進んでいると、通路の奥からいつもの声が聞こえてきた。
声の数からして、2匹のゴブリン。薄暗くてよく見えないが、約30ⅿほど先をこちらに向かって歩いてきている。
スキルに任せて気配を殺し、近づいてくるゴブリンに向かって歩いていく。
<簡易鑑定>
名前:ゴブリンファイター
<簡易鑑定>
名前:ゴブリンエリート
ゴブリンファイターは、遠くから見てもこれまでに戦ってきたゴブリンであることはすぐにわかる。だが、ゴブリンエリートはでゴブリンファイターと同じように全身を皮鎧で固めているというのに、どこかシュッとしている。
<鑑定>
名前:ゴブリンエリート
真新しいショートソードに革の軽鎧、革の帽子、革のブーツ、革の
手袋を装備したゴブリン
ボロボロの装備を身に着けているゴブリンファイターとの違いは装備にあるが、見た目の大きな違いはそこではない。
ゴブリンエリートは、ゴブリンファイターやゴブリンメイジ、ゴブリンアーチャーのように腹がポッコリと出ていない。とはいえ、ゴブリンなのでギャアギャアうるさいばかりで、何を言っているかわからない。
しばらくすると、認識阻害(弱)と気配遮断のおかげで2匹のゴブリンは壁際で待つ私に気づくことなく通り過ぎた。
どう考えても面倒そうなのはゴブリンエリートなので、先にゴブリンエリートに襲い掛かる。
先ずは右腕に持ったディアホーンダガーをゴブリンエリートの首に突き立てると、「ギャッ」という短い断末魔の声と共に、”Critical!!”の文字が突きたてたダガーの上に浮かび上がった。
「ギャッ」という、ゴブリンエリートの声に何かの意味があるのかはわからないけど、少し前を歩いていたゴブリンファイターが首を左側に捻る。
私はディアホーンダガーを抜き取って、ゴブリンファイターの右側へ回り込んだ。綺麗に死角に入った私は、ゴブリンファイターの後頭部を見ながら、左手のスチールダガーを同じく延髄めがけて突き刺した。
再び「ギャッ!」という声と共に、ゴブリンファイターが崩れる。
スチールダガーの攻撃力は低いが、右手のディアホーンダガーの7割の攻撃力になる。でも、急所がズレたのかゴブリンファイターを倒し切ることができず、続けて右手の中にあるディアホーンダガーで喉を切り裂いた。
気道に穴が開き、「ヒュッ」という音が通路に響く。ゴブリンファイターは崩れるように消えていった。
《ゴブリンファイターを倒したのです。
500リーネを入手したのです。
ボロボロの革手袋×1を入手したのです。
ゴブリンファイターの魔石×1を入手したのです。
ゴブリンエリートを倒したのです。
1,500リーネを入手したのです。
冒険者手帳「北湖ダンジョン第4層」ゴブリンエリート(1/5)に
なったのです。
臭い革鎧×1を入手したのです。
ゴブリンエリートの魔石×1を入手したのです》
いやいや、ディアホーンダガーの切れ味が凄すぎるよ……。
*⑅୨୧┈┈┈┈┈ お知らせ ┈┈┈┈┈୨୧⑅*
カクヨムコン10、ライト文芸部門に新作を投稿しています。
「星降る食卓」
https://kakuyomu.jp/works/16818093074372435300
同じくカクヨムコン10短編 2つ短編を投稿しています。
「雪解けのガラス細工」(現代ドラマ・文芸・ホラー部門)
https://kakuyomu.jp/works/16818023212528819150
「夜と星の物語」(恋愛短編)
https://kakuyomu.jp/works/1177354055521680796
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BORDERLESS~進化したVRMMORPGで何故か私が最強になっています~ FUKUSUKE @Kazuna_Novelist
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