友達

バイトが楽しいと思うようになった。きっと、彼女のおかげだろう。


「え、同い年なんですか、ずっと一個上とかだと思っていました。」


宝中陽愛は豊かな少女だった。箸が転んでもおかしいんじゃないかと思うぐらい、彼女は小さなことでもふわりと笑う。笑い方も豊富だから、やっぱり彼女の笑い声にはオーケストラがいるんだと思っている。


「え、そんな年取っているように見えるかな。」


好きな芸能人が結婚したかのように彼女は驚いて聞いてきたから、少し意地悪な質問をした。


「あ、え、そういうわけじゃないです。なんか、とても落ち着いてて大人びていたから。」


慌てながら彼女が言う。本当はただマニュアル業務がつまらなくて、やる気が無いだけだっただけに、気恥ずかしくなった。


「本当は褒めても何も出ないけど、しょうがない。そこのコンビニでなんか買ってあげる。」


「本当ですか、新しく出たアイス食べてみたかったんですよ。」


照れ隠しにそう言ったが、彼女はチェロみたいに温かく笑いながら、うれしそうに言った。新しく出たアイスなら、きっといちごモナカだろう。ぼくたちが働くスーパーでも入荷していたのを覚えている。

コンビニに入ると、彼女は狭い陳列棚をするすると通り抜けながら、アイスのある場所へ向かった。いちごモナカを二つ取ると、片方をぼくに渡した。


「一人で食べるのは寂しいから、先輩も食べてください。私が先輩の分を奢るので、先輩は私のを奢ってください。」


きれいな笑顔を作りながらそう言う彼女を見ると、ぼくの中で何かが満たされていく。少しの欲望が混じったそれが、血液と一緒に全身を駆け巡るのを感じた。彼女がそのままレジに行ってしまったから、慌てて彼女を追って、ぼくも会計を済ませる。

コンビニを出ると、ぼくは彼女と買ったいちごモナカを交換した。


「そう言えば、初めて会った時、先輩はモナカを漢字で書けなかったですよね。あの時、実はちょっとバカにしていました。」


「あぁ、そんなこともあったね。というか、そろそろ先輩呼びやめてよ、同い年なんだから。」


「先輩の方がバイトは先にいたんですから、同い年でも先輩ですよ。それに私通信だから、先輩らしい先輩いないんですよ。先輩後輩の関係に憧れていたのに。」


学校の先輩とバイトの先輩は違うんじゃないかと思いながら、彼女が満足するならいいかとも思った。


「それにしても、こんなに先輩と仲良くなるなんて思ってませんでした。まだ3ヶ月ぐらいしか経ってないのに、3年来の友達に思えてきます。」


やはり年上が多い職場だから、同い年のぼくと彼女は何かと気が合い、すぐに仲良くなった。いつの間にか、バイト帰りに一緒に帰るのが決まりになった。隣で歩く彼女から、なにかの拍子の度、清潔で優しい匂いがする。美容室の匂いに似ていたが、実際美容室で販売しているヘアミストを使っていると言っていた。


「陽愛は大げさだな。」


「本当にそう思っていますよ。先輩ほど深く相談できる友達なんて、あんまりいないです。」


彼女は度々、ぼくに相談を持ちかけてきた。初めて相談を受けた時をよく覚えている。ぼくの胸を、ちくりと刺すものがあったからだ。


宝中陽愛には、彼氏がいた。






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処女 天使由良(あまつかゆら) @yourlove

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