第16話 聖夜の陰で

「…あっ、見つけた!」

そう言った瞬間、少女が視界から外れてしまった。…いや、何と言えばいいのか、わからない。

「衰弱しきっている…このままでは…」

君はお医者さんか何かかな?

「とりあえず、運ぼう…そうだな、あそこの病院まで」



「なんだなんだ、お金を持っていないじゃないか!冷やかしなら帰ってくれ」

「そんな!私たちはただ…」

「うるさい!いちいちそんな身寄りのない子供の相手をできる程、我々も暇じゃないんだ!とっとと出てってくれ!」

…いろんな病院をまわったけど、どこもこんな感じで、受け入れてくれるところなんてなかった。人間、権力とお金を手にしたら価値観が狂ってしまうんだろうな。

「そろそろまずいかもしれませんよ…この子」

「…【万策尽きた】って、こういう場面の事なのかな」

やることはやった。それでも駄目だった。…私たちは、彼女を救う事ができなかった…。


「やっぱりここに居たのね」

「きみは…あの時の…」

少女の行方を何故か知っていた、謎の狐耳の幼女。何故この場所がわかったのだろうか。

「…彼女はもう手遅れ、私にはもうこの未来は見えてたわ」

「だったら何で、彼女を助けたり、私たちに最適なアドバイスをするとか…」

「私が彼女に触れることが出来ないから」

…え?

「私、幽霊なの。生前はその子と仲が良かったのよ?」

…なるほど、幽霊か…。

「あなたたちは別の世界から来たんでしょう?帰り道なら知ってるわ。あっち」

少女が指を指した方向には、大きな山がそびえ立っていた。…あれを登れと?

「私たちは帰るのに、いくつかの前提条件をクリアする必要があるんだが、それは…」

「大丈夫、あなたたちはもう【クリアしている】から」

…少女を追いかけた位しかしてないんだけど。

「条件は、【私と少女を出会わせる】こと。ほら、達成してるでしょ?…早くおかえりなさいな」

「でも…」

「早く!」

突然の大声に、一瞬身が怯む。

(…早く行きましょ)

状況を察したかのような顔をして話しかけないでくれ。…まあ行くけど。


「…ねぇ、マリー、私よ、キキョウよ。覚えてる?」

返事はない。

「…まあ、帰ってこないよね。返事。…あの頃は二人で、楽しく遊んでたわよね。それがどうして…」

キキョウの頬を涙がつたう。

「…もう、お別れみたい。私は成仏して天国に行くけど、真面目な貴女ならきっと天国に来て、私を見つけてくれると願ってるわ。…それじゃ、またね…」


…。




…?

ここでキキョウは、ある異変に気付く。

(笑って…る?)

既に息絶えた少女のその顔は、まるで友人に逢えたかのような笑みを浮かべていた。

「…ふふっ」

一つの霊魂と、一人の人間が、雪降る聖夜の中、天に旅立っていった。

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夜伽噺 落葉 @otivaaaaa___

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