いつの日かモンペール
gaction9969
〇△◆
「さ、さぁ~て、とぉ……あ、あー今日はそのぅ……えぇ久しぶりにどこか行かないかい? せっかく二人きり、なわけだし」
ようやく暑さがまあまあ収まりを見せ、開け放したリビングの窓から十月の、
「こ、
必死だねぇ。いつもはその「心愛ちゃん」優先で動いているように感じられるけどねぇ。
私からの返事を引き
「いいけど別に。どこ行くの」
私が寝そべっているずっしりみっしりとした黒革のソファは見た目も
ヒトのことはあまり言えないけどそれでも最低限
何日か前から色々準備してたの知ってるんだなー、その端末、私も入れちゃうから。今どきPINに四桁しかも自分の誕生日とか設定しちゃダメでしょうよー、個人情報漏洩。ま、家庭内の
や、
仕事はわざわざ有休取って私の休みに合わせて。
今日という日を選んだのも、そう。
三年目ってことだよね? 自分は何も気づいてませんよ、みたいな顔とか素振りしてるけど、女の方が記念日とか普通に覚えているから。
壊滅的に下手くそなサプライズ。その
と、ととととりあえずランドに行ってみようかぁ今日は水曜だし多分そこそこ
よぉぉし、じゃあ行ってやりますかぁぁ。と、体を起こしつつぐいと
スマホと定期入れだけを突っ込んだジルのポーチバッグはまあそれだけしか入らないくらいの低容量ではあるんだけど、雑誌付録とは思えないくらいに見た目が赤茶にぬめってて
私を見たモンペーくんはと言うと、うぅん、さ、
それよりもその焦げ茶色と灰色の中間色みたいな、もさっとしたジャケットはどうにかならんもんかな……うへへ、今日の
夢の国の景観を
運良く隣同士で座れた京葉線にて一路、舞浜……夢の国へ。
まあ言うて、そこそこの混み具合だった。外国人旅行客ハンパなぁい。あっるぇ~
ファストパスを駆使して、人、人、人が群れなす園内を
ここまでサプライズを仕掛けるのが下手な人もいないんじゃないの? とか思いつつも私はもう気にせず目の前のアトラクションを思う存分楽しむことに集中するって決めてるわけで。時刻はそんなこんなであっさり六時。空の上の方から、
ば、晩めしはどうしようか、ってまた唐突に聞かれたけど「晩めし」は無いだろどこだと思ってんだ。それにあちこちでポップコーンやらティポトルタやらいなりチキンドッグとかをのべつまくなしで食べてるからそんなにおなかは減ってないし。て言うか予約とかしてないんだね、レストランとか。そこでその、いろいろ調べてた私へのプレゼント? を渡されるのかなとか思ってたけど。違うのかぁ……大丈夫かなぁ、諸々の段取り……とか、私が心配することじゃないにしろ、不安感はフアンフアンとプロペラのように私らの頭上で回転しているようでもあり。いやいや、
それよりも最重要案件、あと三十分くらいでパレードでしょうよ、場所取りしないでどうすんの。と、すっかりここの空気感に浮かれ上がった私は、行くよ、と頭の中に叩き込んできた穴場を目指して、その丸まった大きな背中を押して急ぐ。
大きな樹がその屋根よりも高く囲む、とある
うん、いい感じ。前に連なる人たちの頭の上に目線が上がったから、パレードの全容がたぶん邪魔されずにばんと視界に入るだろうし、手ぇ振ったら応えてくれる率も、きっと
へぇぇえ、ここからだと本当、ちょうどいいなぁ……と、少し息を弾ませながら辺りを見回す丸い横顔の、輝かせた少年のような瞳はなんか少し笑えた。でもそうやって目線を……物理的にも、意識的にも、私の高さにすっと合わせてくれるところは……普段は
不安定な足場だから、自然と並んで体同士をくっつけてしまう。
「……」
しばらく無言でそうしていた。相変わらずの緊張からなのか、触れているところが徐々にガチガチに感じられてもくるんですけど。もぉう、落ち着いてってば。と、
「も、ももももう三年になるね」
辺りのざわざわに、かき消されそうなほどの小声で、心配になるほどのぎこちない切り出し方で言うけど。まあもう知ってるよ、今日が三年目だってことは。
「こ、ここここれ三周年のプレゼント。ぼ、ぼぼ僕と心愛ちゃんとで選んだんだけど」
ここで渡すんだ。それより、もうっ……自分で選んだって言えばいいのに。でも、ずっとポケットに入れてたのか、これまたしっとりして温かい
ハートを波が包んでいるようなデザイン。いいセンス。またも自分以外のものに発揮されるやつが炸裂したねぇ、とか、無理やり頭の中でそんな事を考えて気を
「き、ききキミは、ぼ、ぼぼ僕のところに来て、し、幸せかい?」
笑っちゃいそうになるほどの、英語の教科書みたいな構文調。何だかなぁ。でもそんな風にストレートに聞かれるとは思わなかったので、何て答えていいか逆に戸惑う。戸惑いながらも、聞いてくれたことが嬉しい自分は、やっぱりいるのだけれど。
「うん、まあそこそこ」
でも口から
「……」
やっぱり私にとっても、大切な人なわけであって。
「ねえ、それより……」
これがいい機会かも。いつまでも
「パレード終わったら、トルバでソフト買ってよね、お父さん」
う、ううううううん、ももももちろんさー、と、かなり
……この三年間、他人の私を大切に育ててくれてありがとう。
面と向かっては「ねぇ」とか「あのさ」とかしか呼びかけられなかったけど、心の中では「モンペーくん」、だけじゃなくて、たまには「パパ」って呼んでたんだからね。
でも、
私もこの三年でとっくに「
いいでしょ? 私のお父さん。……これからも、よろしくね。
歓声にいきなり体の全部が包まれた気がした。背伸びをしてみたら、お父さんの
(終)
いつの日かモンペール gaction9969 @gaction9969
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます