2020+1東京オリンピック前夜

矮凹七五

第1話 2020+1東京オリンピック前夜

 地球から遥か遠く離れた所に、一つの惑星がある。

 その惑星は地球と同様、水にも緑にも恵まれている。

 惑星上には地球と同じように町があり、そこにはドーム状の建物がいくつも並んでいる。

 数ある建物の一つ。その内部に一体の生命体がいる。

 その生命体は地球人と同じような体形なのだが、頭に一本の触角がある、大きな目が縦に二つ並んでいる、肌が銀色という点で地球人とは異なっている。

 空中に映し出された立体映像。

 そこには一体の生命体が映し出されており、それは地球人と何ら変わらない姿をしている。目は横に二つ並び、肌は褐色がかったペールオレンジである。

 髪の色は黒、年齢は五十代くらい、性別は男性と思われる。

 地球人の姿をしたものは、何かをしゃべっている。

 背後には大きなモニターがあり、平らな映像を映し出している。

 銀色の生命体はソファーのようなものに腰掛けてくつろぎながら、それを見ている。



 オリンピック及びパラリンピックの理念を簡単に説明すると、人間の尊厳を保持し、スポーツを平和と人類の発展のために役立てる事である。

 世界中から様々な人間が集まってスポーツを行うオリンピック。

 その理念ゆえ、選手達は互いに尊重しなければならない。

 それは選手達に限らず、運営や準備に携わる人間達も同様である。

 博愛の精神を持ち、平和を尊ばなければならない。そこに差別が生じてはならない。国内外のいさかいを持ち込んではならない。

 だが……


 東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長が、女性蔑視発言で辞任。

 批判を浴びた発言内容は「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります」というものだった。

 彼は他にも様々な失言を繰り返してきた。

 辞任した後も、ある議員秘書に対して「女性というには、あまりにもお年だ」という失言を放ち、多くの人をあきれさせた。


 東京オリンピック・パラリンピックの演出統括者が、女性タレントの容姿を侮辱して辞任。

 女性タレントを豚に見立てた演出案を提案したというもので、これまた多くの人をあきれさせた。


 東京オリンピック・パラリンピック開会式で楽曲を担当する音楽家が、過去に障がい者を虐待し、それを武勇伝として雑誌内で語っていた事が発覚。

 その内容は、排泄物を食べさせた上でプロレス技を仕掛ける、全裸にして紐を巻いた上で自慰行為を強要させる等、凄惨極まりないものだった。

 しかも、本人は直接手を下さず、他の人にやらせていたと言われている。

 この事は多くの人から怒りを買った。

 結局、その音楽家も辞任に追い込まれた。


 東京オリンピック・パラリンピック開会式の演出担当者が、芸人時代、戦争中の大量虐殺を揶揄するコントをやっていた事が発覚。

 人権団体から抗議が来た。

 世界のあちこちで怒りを買った演出担当者は、解任された。


 東京オリンピックのトライアスロンやオープンウォータースイミングでは、汚物による悪臭が漂う海を泳がなければならないと言われている。

 東京都で採用されている合流式下水道は、雨水と汚水が一緒に下水管に流れ込むというもの。大雨により下水が増えると、下水処理場で処理されずに川や海に流れ込む。

 汚物の匂いがする理由は、これまでにゲリラ豪雨や台風等による大雨を繰り返し、汚物混じりの下水が、何度も海に流入してきたからか。

 ひとたび大雨が降れば、大量の下水が流入し、海水中における大腸菌の量が、基準値を超えてしまうかもしれない。これは多くの人が懸念している事である。



「……」

 銀色の生命体が見ていた立体映像は、地球で放送されている情報番組。内容は東京オリンピックにまつわる様々なスキャンダルをまとめたものだった。

 どのような技術を使って映像を受信していたかは謎である。

 立体映像内のモニターには、四角い顔をした恰幅のいい老人の姿や、傘の小さい茸みたいな頭を持つ男の映像が、映し出されていた。

 生命体の口が開く。

「オリンピックはスポーツを見て楽しむものだと思っていたが……」

 独り言を言っていた生命体の口が閉じた。何か考え事をしているようだ。

 しかし、すぐに口を開き、独り言を再開する。

「茶番劇を楽しむものだったんだな」

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2020+1東京オリンピック前夜 矮凹七五 @yj-75yo

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