Sランクパーティーを追放された補助魔法使いの僕は復讐を決意する
華咲薫
Sランクパーティーを追放された補助魔法使いの僕は復讐を決意する
「エル、お前をパーティーから追放する」
朝、少し遅れてギルドに現れた僕へパーティーリーダーのアルスはそう告げた。瞬間、普段よりけたたましく感じたギルド内の喧騒も聞こえなくなり、静寂が支配する。
――追放。その言葉の意味を理解できず説明を……助けを求めるようにみんなの顔へ目を移す。
けれど、そんな一縷の望みはすぐに打ち砕かれた。メンバーのおおよそ仲間へと向けるものではなく、まるで貴族が平民を見下すような、感情のない瞳が全てを物語っている。
アルスの言葉が冗談なんかじゃないってことを。
僕が……不要な存在なのだという事を。
「ど、どうしてですか?」
だからと言って、なんの説明もなしに納得なんてできるはずがない。何か理由があるはずだ。
数年前、記憶を失っていた僕を無条件で救ってくれた彼らが、誰よりも優しいはずの彼らが、理由もなく僕を追放するだなんてそんなことあるはずが――ッ!
「全く心当たりがないって顔だな」
「ありません! だから――」
「そういうところだよ」
「……え?」
そういう……ところ?
「モンスターと戦う時も攻撃や回復は俺たち任せ。お前は安全な後方からちょっとした補助魔法だけ使って、報酬は山分け。いい加減うんざりだ」
「……それは……でも」
「俺たちが提案したからって言うのか? だったら、パーティーから追放されるのにも素直に従えよ」
「…………」
その言葉に、僕は何も言い返せなかった。確かに、僕は彼らの後に付き従っていただけだ。
――居心地の良い場所だったから。
僕が何かを言って壊れるのが怖かった。けれど、それは間違いだったのだろう。
「俺たちに必要なのは従順な下僕じゃない。対等で信頼できるパートナーだ」
一言一言が胸に突き刺さる。
反論したかった。
これからは対等になれるよう努力します。だから僕を捨てないで下さいと。
それなのに僕は床の模様を見つめたまま、顔を上げることすら出来なかった。
もう一度、みんなの失望した眼差しを目の当たりにする勇気が……僕にはなかった。
「何も言うことは無いみたいだな。ならさっさと失せろ。目障りだ」
「…………は……ぃ」
喉から絞り出した声は言葉にならなかったけれど、もうどうでもいい。
僕はみんなから逃げるように、建物の扉へと向かう。
「せめてもの選別だ。今の宿舎はしばらく使えるようにしておいた。せいぜい、その間に役立たずなお前を受け入れてくれるパーティーを探すんだな」
悲しさや悔しさがぐるぐると心の中を支配する中、聞こえてきた言葉がアルスとの――みんなとの別れだった。
□ ◆ □ ◆ □ ◆ □
――彼らの訃報を聞いたのは、それから三日後のことだった。
何をするでもなく、ただただ宿の中で時間を無為にしていた僕の元へ、ギルドの受付嬢がやってきた。そして、あの日の真相を伝えられた。
僕がギルドに到着する少し前に魔王軍が近郊へ攻め入っているという情報が入ったらしく、ギルドメンバー――特に高ランクパーティーは援護の要請があったそうだ。
しかも魔王軍最高峰の戦闘力を持つ七傑の一人までもが目撃されており、Sランクのパーティーといえども勝てるかどうか分からない相手だった。
「アルスさんたちは直ぐに出立を決意されました」
それはそうだろう。彼らは誰よりも正義感が強い、正真正銘の勇者なのだから。
「けれどエルさん……あなたは連れて行きたくないと、彼らは言いました」
「……それは」
僕が役立たずだから……じゃないことくらい理解できた。理解……できてしまった。
「エルさんには無限の可能性がある。全人類の希望なんだ、と」
そんなことはない。僕は補助魔法が使えるだけの非力な魔法使いだ。
「俺たちに付き合う必要はない。自分の力に制限をかけるな。その気になれば何だって出来るんだ、と」
そんな……ことはない。僕に出来ることなんて限られている。僕自身が一番理解している。
「だから……生きてくれ、と」
そんな……。
パーティーメンバーの優しい笑顔が次々と浮かび上がり、移ろい、そして消えてゆく。
彼らは何も変わっていなかった。ずっとずっと優しい最高の仲間だった。
それを信じきれなかったのは自分だ。表面上の言葉に傷つき、思考を停止していた。
少し考えれば分かることだった。後を追うことだってできた。共に戦い、その結末が人生の終わりだったとしても、僕は後悔なんてしなかった。
「う……、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
――許さない。
彼らを殺した魔王軍を。
そして何より、自分自身を。
□ ◆ □ ◆ □ ◆ □
――数年後。
「貴様――ッ! 我輩の研究成果をことごとく無にしおって! その蛮行、断じて許さ――」
「知るか」
一閃。
青年の振るった剣は、目にも止まらぬ速度で激昂する魔族の核を切り裂いた。己を保持する機構を失った魔族の身体は霧散し消滅する。
ここはとある研究施設。魔族が研究と称して行っていた実験――その中心機関を青年は単身で壊滅させた。数十にも及ぶ敵と戦ったにも関わらず、彼は一切の傷を負っていない。それほどに青年――エルは圧倒的な力を身につけていた。
仲間を失ってから今日までの間、エルは死地を求めるかのように魔族との戦いに明け暮れた。生死を彷徨ったのも一度や二度ではない。それでも彼は立ち止まることなくひたすらに魔族を殺し続けた。
魔族か否かという判断基準に従って。
機械のように、淡々と。
――それこそが贖罪と信じて。
「……残るは設備の後始末だけか」
魔族がどのような研究をしていたか、興味は微塵もないが、設置されている高度な機械類は壊しておくべきだ。
周囲を爆破するために、エルは魔力を練り始めた……その時。
「誰だ!?」
背後から聞こえた物音に、練っていた魔力で攻撃準備をしながら瞬時に振り返る。するとそこには、ある女性が立っていた。
彼女の顔を認識した時、エルの心臓が力強く鼓動した。有り得ないという理性と、目の前の事実を受け入れたい本能がせめぎ合う。
けれどその拮抗も女性の一声で崩れ去った。
「……エル……なの?」
「……リリィ」
かつてのパーティーメンバー。数年前に命を落としたと聞かされていた女性が、記憶と変わらぬ姿でそこにいたのだ。
――唯一つ。
彼女の瞳が魔族の証である紅に染まっていることを除いて。
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最後までお付き合いいただき有難うございました!
逆張りオタクな人間が追放系を書くとこうなる!って感じの練習作でした。
全編シリアスになりそうなので続く予定はありませんが、一言だけでも感想をいただけると嬉しいです!
Sランクパーティーを追放された補助魔法使いの僕は復讐を決意する 華咲薫 @Kaoru_Hanasaki
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