第48話 スネーク ハント
「武人としての興味で拳を交えましたが、己が未熟を知りました。ここからは出し惜しみなしでお相手しましょう」
「へえ、お手並み拝見といこうじゃねえか」
明日香が観察を続ける中、王の腕は煙を上げながら形を変えていき、最終的に本物の蛇のような形態に落ち着いた。
「はっ。サーカスにでも出るつもりか?」
「ほざきなさい!」
明日香の挑発に激高し、リーチと硬度の増した打撃がコンテナの中を乱舞する。
巻き込まれた家具類はたちまちごみくずと成り果て、かすっただけで壁がひしゃげる。その威力を十分に示して見せた。
しかし、驚愕に手を止めたのは王の方だった。
「なんという動体視力……」
明日香はポケットに手を入れながら、踊るような軽やかなステップで全ての乱打をかわし切って見せたのだ。
「もう終わりか? まだ本気じゃねえだろう?」
紫煙を吐きつつ余裕の笑みを浮かべる明日香に対し、王は歯ぎしりしつつ、リーチを捨てて突撃する。
より濃密な蛇拳の嵐に巻き込まんとして。
一撃。
一撃さえ入ればいいのだ。
さすれば、牙からしたたる神経毒が一瞬で全身に回り、勝ちは揺るがない。
しかしその一撃すら、まったくかすりもしないのだ。
時折牽制として毒液を飛ばしても、飛沫の全てが当たらない。
王の攻撃は決して遅くはない。むしろ残像を伴って振り回される二本の蛇鞭を受け切れる者はこれまで皆無であった。
かわし切る事が困難になれば、必ずどこかで受け止める。その隙を狙い牙を突き立てるのが王の必勝法である。
しかし目の前の女には、一切当たる気がしなかった。
次第に王の額に脂汗が浮かび始め、顔色が紫に染まり出す。
いかに鍛えていようと、これだけの時間無呼吸で連打を繰り出しているのだ。そろそろ息の限界だった。
「──ふぅん!!」
追い込まれた王は敢えて大振りを繰り出すと、後方の壁を打ち砕いて退路を作った。
そして距離を取って一呼吸した瞬間。
「良い見世物だったぜ」
明日香の無造作なヤクザキックが、呼吸をさせじと王の鳩尾に深々と突き刺さっていた。
王が後退するのに合わせて、明日香も前方へと距離を詰めていたのだ。
「ぜ……は……」
王が息を絞り出すようにして、呼吸困難の症状で倒れ伏す。
その間に明日香は、王の両腕の蛇で、王自身をぐるぐる巻きにして捕獲した。
「大蛇を二匹操るには、スタミナ不足だったようだな」
明日香の方はまだまだ余裕しゃくしゃくといった様子でスマホを取り出した。
いたぶり過ぎて死なせた前回の反省を活かし、なるべく手数を出さずに捕らえる事を優先事項としていたのだ。
「……おう。例の術師とその他、生け捕りにしたぜ。さっさと引き取りに来い」
機関への連絡を済ませると、改めて部屋を検分する。
「飲み過ぎると蛇になる薬ねえ……何が目的だったんだか」
床にばら撒かれた
解明するのは機関の仕事である。
その後研究員達もまとめて捕縛すると、しばらくしてやってきた機関の回収員に引き渡し、今回の仕事は終了した。
新宿ジェミニ ~霊能姉妹の過激なる事件簿~ スズヤ ケイ @suzuya_kei
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