第4話 頬杖ついてるようじゃ

始まりは彼女もよく覚えていない。しかし機械的な毎日は時に退屈になる。こっそり抜け出そうとする時が何度かあったが気づくとここへ戻ってきているのだ。自らの足で。まるで籠の中へ吸い込まれるように。


もしかすると、自分自身がここにいることを望んでいるのかもしれない。社会の中で陰ながらせかせか働くミューザ達を見ていると、どうしても彼女にとって異空間である世の中という場所に出ることに躊躇してしまうのは仕方ないだろう。




頼まれた注文を確認しつつ厨房へ行き、今日も綺麗に盛り付けられた食材(血塗れた言葉)をお盆へ乗せて運んで行く。


いつかは覚えていないが一度この食事を一口だけ食べたことがある。ミューザ達があまりにも美味しそうに食べるので興味が湧いてしまったのだ。しかし、口にしてみるとどうだろう。とんでもなく不味かった。苦味が酷く口の中に残りドロドロとした黒い塊を食べているような感覚。人間から発された汚された言の葉は食っても彼女の口には合わなかった。



ミューザ達は料理の感想を交えつつ談笑し、完食すると店を後にして行った。


空っぽの皿を片付けながら、ふと自分は何者なのかという問いが頭を過ぎった。いや、正確には今まで幾度となくその問いが脳裏に浮かんでは、かき消して流すように皿洗いをしていた。


「大人になったらいつか分かる。何故君がここにいるのか。どうして外の世界へ行きたくないのか。そして…君が何者なのか。」



大人になるっていつだろう?金を稼げるようになったら?愛を知ってからか?いや、正確には定まっていないのか…?


いつしか男に言われた言葉を最近よく頭の中で復唱する。



男はいつも営業時間の10分前に来ると金を少女に渡しに来る。少女はその金を何処かで使うでもなくレストラン裏にある自分の寝床へ持って行く。寝床と言えどシンプルな家具しかないような閑散とした空間だが。彼女はそこへ行き、クローゼットの中にある缶の中に金を入れる。



もうすぐあの缶もいっぱいになってしまう。


戸棚からからの缶を取り出し、中身を洗って水気を取った。




レストランの一席に座る。次のお客様が来るまで彼女は頬杖をついて溜息をついた。

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レディメイド 南莉花 @kaaLeeNnn

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