第3話 寄る辺ない侘しさに


チリンチリン。






ドア・ベルが無駄に大きな店内へ鳴り響く。



3人組が雑談に花を咲かせながら店内へ入ってきた。


「いらっしゃいませ。3名様ですか?此方へどうぞ。」



そう淡々と述べる彼女の前に立つのはなんとも言えない表情をした異形の身の者達だった。

人間のように直立二足歩行をしているが、その顔はまるで猫のよう。目は顔の3分の2以上を占め、その色は吸い込まれそうな藍色をしている。白い肌に絵に描いたような顔のパーツが並んでいる。







彼女はそれを気に留める様子もなく4人がけテーブルに3人…いや、3匹を案内した。



ここ”Blue Rose”は人外専用のレストラン。彼らはいつも人間と同じ空間で日々働いている。人間には見えないように。

例えば、上司に毎日のように叱責を食らっているサラリーマンがいるとしよう。彼らは簡単にぺこぺこと頭を下げる。少しでも上司の機嫌を損ねないために、散々謝るのだ。だがひたすら後悔と反省の念を持っていようと、人間誰しも憎悪や嫌悪を持っている。その正体が彼ら異形の身”奇怪社員(ミューザ)”である。

いじめっ子の脳内で良心を解体する作業。政治家の嘘作り。会社員の恨み生産。殺人鬼の思考回路プログラム。アンチコメントを書く指を組み立てる開発技術の発展。家族の築き上げた信用の樹を切り倒す伐採作業…。

言い出すとキリが無いが彼らミューザの仕事はざっとこんなもの。彼らはそんなに難しい仕事をしているのではない。程よく秩序を壊す”ゲーム”を仕事として成り立たせているだけなのだ。

では報酬は何か。それは勿論彼らが仕事をした後に起こる人間が発する血塗られた言葉である。

その言葉を食事として提供するのがBlue Roseなのだ。



今日もたんまりと食事の材料が運ばれてきた。


それを調理し、提供するのがここで働くたった独りの人間。ミューザからは”レディメイド”と呼ばれている彼女だ。


しかし何故異形の身が集うこの場所で彼女は働いているのだろうか。

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