'Safety Cocaine' TV CM

芳村アンドレイ

第1話

"...So, the next time you're at your local supermarket, be on the lookout for,

'Holy Shit! I Can't Believe It's Not Sugar!'

and for a limited time, it's only 15 bucks!

That's minimum wage!"

"Legitimate health-food brain-food, everybody whose anybody knows what's up! Trans fats? Hell no! There's not even a loophole to go through! Zero calories in this 2 pound bag with no artificial sweeteners!"

"100% Safety Cocaine is 50% pure cocaine, and 50% neutralizing agent, practically impossible* to overdose on and non-addictive!"

"Still not sold? Just take a snort and let Safety Cocaine wipe your troubles away risk free!"

"Be choosy! Snort Safety Cocaine!"


「また流れてやがる」

テレビは『指示通りに使えば安全』、『よく混ぜろ』、『特許出願中』などと早口で言ってから次のコマーシャルへと移り変わった。

「仕方ないですよ先輩、政府が推しているんですから」

「推すならもっとマシなものがあるだろ...エコバッグとか」

フィリップは目の前にある実験装置をいじりながら呟いた後、隅に置かれてあるテレビを消そうとして手を伸ばした。

『三月に来日した純白の粉!すぐさま売り切れるから、今度スーパーへ行ったら〈マジで!これ砂糖じゃねえのか?!〉を血眼になって探して見ろ!』

フィリップは舌打ちをして電源スイッチを思いっきり潰した。


「でも、よくそこまで嫌いますね。僕は正直やってみたい気持ちもあるのに」

後輩のポロコフはノートに実験結果を一つ記録した。

「たとえ『セーフティー』でも、あれは紛れもないコカインだ。下手すれば脳内ずたずたになるぞ」

「いとこが結構やってますよ。確実にオーバードースする量も取ったんだが見事に何も起こらなかったんすよ」

「運が良かったんだな」

「十回もですか?」

「十回もやったのか!?」

フィリップは大事な小さいガラス板を落とすとこだった。

二人は黙り込んで実験を終わらせてから話す事を無言で決め合ったが、その実験というのがしょうもなくて時間の無駄だという事も二人はよく解っていた。

「なあフィリップ」

ポロコフはノートを塵箱に投げ入れた。そして、白衣のポケットから紙袋を取り出した。

それはまるで砂糖でも入れてあるような形だったが、ピンクとライトブルーの線がネジをなぞるように袋の周りに描いてあった。正面には〈マジで!これ砂糖じゃねえのか?!〉の文字があり、その下には毛の白いゴリラがくつろいでいた。

まるで化け物を封印でもしていそうなその紙袋がフィリップを睨む。

「なんてものを取り出すんだ!まるでだな」

「やめてくださいよ」

ポロコフが袋を開けた。

テレビを消して早々これか...とフィリップは思った。

「買ったのか?信じられん」

「いとこから貰ったんすよ」

白紙を広げたポロコフはその上に粉の線を、白い歯を見せて笑いながら引いた。

「お先にどうぞ」とポロコフが一歩後ろへ下がる。

「お前が先にやれよ、その後に俺がやりたければやる」

ポロコフは肩をすくめてから粉の線を鼻から思いっきり吸い込み、くるっと一回転し、椅子にぽんっと座った。

その気軽で満足そうな姿を見てフィリップは思わず粉の方へと歩いてしまった。



次の一週間にわたってポロコフのいとこから貰ったセーフティーコカインを勤務時間に楽しんだ。一度舞えば埃とも区別できないその粉に二人は没頭し、恋をし、使いきったが、袋が空になったらそれも終わる。トリップから放り出されても、また中へ引き込もうとする魔人の手は伸びてこない。

紙袋は丁寧に平たくしてからピンで壁に飾った。

「どうします?これ以上ジャンキーになるのも気が引けます」とポロコフ。

「そうだな。もうはしゃいだことだし、しばらくは休んだ方が身の為だ」

笑みを浮かべながらポロコフは塵箱からノートを取り出した。

しかし、次の日にいとこが死んだ。


柔らかくなった、まるで溶け掛けのアイスクリームのようないとこの頭の後ろをスプーンで削り取ったかのような死体だった。顔は一応残っていたが、その奥が綺麗になくなっていた。

警察が写真をいっぱい撮り、現場に「立ち入り禁止」と書かれてある黄色いテープを貼り巡らせ、みんなが一瞬だけ気を抜かした時に死体が脱走したという。

立ち寄っていた一人の警官に猛烈なパンチを喰らわせてから、奇怪で軽快で爽快な足取りで逃げたらしい。

ショックでポロコフはすっかり落ち込んでいた。

「先輩...」

「どうした」

「いとこの事は聞きましたよね?」

「もう何回も君から聞いているよ」

「実はあいつ、麻薬から足を洗おうとしていたんですよ。だから俺に残った袋を渡したりしたんです」

「そうだったのか」

「...死体が動くっておかしなことですよね?」

「まあな」

「一体何が欲しいんでしょうか?もしかして、あの袋を取り戻しに来ないでしょうね?」

「それはいやだな」とフィリップはまた拳銃を握りなおした。

「やっぱ新しい袋を買った方が良かったのかも...」


春はお茶と飛行機雲。優しい風はいつもラボの外で吹いている。若い緑が木々に実り、新鮮な色を眼に映す。上には鳩、枝にはリス、そして窓の外にはいとこの顔があった。

ポロコフは叫ぶ暇もなく気絶した。

フィリップが慌てている間に、いとこの腕は窓ガラスを割って入り込んだ。

「なんだお前!ど、どうして動けるんだ!」

「これの事か?」いとこの指は頭を差した。「これはどうって事はない。あいつを吹き飛ばしただけだ」

フィリップは拳銃を構えたが、どうもおもちゃを持っているとしか思えなかった。

「そう怖い物を向けるな。お前と別に用はないんだ、ただ...」いとこの眼は飾ってある袋を見た。

「はぶっぷっ!てめー!俺の袋を使いやがったな!はあーーーー!」

「ポロコフの言った通りか」

「はん?まあいい。袋なら後で買いに行ってもらう」

「セーフティーコカインが欲しいんだな?あの袋は見ての通り空だが、お前のくれた袋だ。俺のせいとかには、するなよ」

「いやいや、袋をあげたのはあいつだ。俺らではない。あいつだ!あのクソ重罪人め!昔はそんな悪い奴でもなかった。死んだ時には俺らも一緒に死んであげるとも思っていた。しかし、あいつは俺らにをさせた後、いきなり取り上げたんだ!俺らは欲しさゆえに苦しんだ。あいつと交渉もしてみた。それでもあいつは俺らの言う事を聞かなった。だから、」

いとこの指はまた頭を差した。

「だが、コカインを...」

「中和剤の方だ」

いとこの肩は降りた。

「俺らは脳を抱え込み、脳に尽くす。だが脳は俺らの為に何をする?体も生き物だ。フィリップ、俺を撃ったところで、俺らは消えないよ」


隅のテレビが突然点いた。

『三月に来日した純白の粉!すぐさま売り切れるから、今度スーパーへ行ったら〈マジで!これ砂糖じゃねえのか?!〉を血眼になって探して見ろ!』

『そして期間限定、たったの十五ドルだ!最低賃金だぞ!』

『ガチの健康食、頭脳食!生きる価値のある奴はみんなやるぞ!トランス脂肪酸なんて入ってねえ!一キロの袋でカロリーゼロ!』


「フィリップ、お前に交渉を始めたようだな」


『セーフティーコカインは紛れもないコカインを五十パーセント、中和剤を五十パーセントで出来ている。マジで過剰摂取出来ねえ*、中毒性もない!』

『まだ買いに行ってねえのか?早くしろよフィリップ!俺らはもう我慢できないよ!まだ買いに行かねえのか?早くしないと食っちゃうぞー!まだ買いに行かねえか?!』


「一週間が限度だ。覚えとけ」

フィリップは銃を落として頷いた。


『三月に来日した純白の粉!すぐさま売り切れてるから早くしねえか?!...』

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