とある少女の成長の記録と、いつもその傍にある謎の存在「きよちゃん」の物語。
とても不思議なお話です。まずもって「きよちゃん」の存在そのものが不思議。
一見、いわゆるイマジナリーフレンドのようでいて、でも明らかに物理的な肉体を伴った存在。しかし呼ぶたびに押し入れから出てくるそれが尋常の人間であるはずもなく、またそもそもこの物語が主人公の一人称体で綴られていることも相まって、さてこの「きよちゃん」とは一体なんなのか——?
と、否が応でも先が気になってしまうのがもうすごい。淡々と語られる主人公の身の上もあって、気づけばすっかり引き込まれていました。
この先はネタバレ……というほどではないにせよ、どうせなら本編を読む前には見ない方がいいと思う内容に触れています。一応、「きよちゃん」の正体そのものには触れていませんが、未読の方はご注意ください。
〈 以下ネタバレ注意! 〉
描かれているものの太さというか、内容の分厚さがもう本当に大好き。
わずか5,000文字の掌編とは思えない重厚さ! 人ひとりの人生をきっちり描き切って、本文に直接は書かれていない日々のことさえも想像させてくれる、この時間の積み重ねられていく感覚が最高でした。読み取れるものや想像できることの多さというか。
中盤以降、「きよちゃん」の正体も明らかになり、またその先の展開が(あくまで大まかにとはいえ)察せてしまう部分があるのですけれど、そのうえでそれを実際に見せられることの面白さ。わかっていても躱せないからこその破壊力に、なんだか舌を巻くような思いでした。
大変面白かったです。人の人生のドラマを感じさせてくれる見事な作品でした。
小さい頃、いつも一緒にいてくれた。
名前も、顔も、夢中になって遊んだことも覚えている。
笑い方も、走り方も、どんなぬくもりだったかも。
全部鮮明に覚えていて、間違いなくいたはずなのに
大きくなってから会おうとしたら
そんな人はいなかったってこと、ありませんか?
僕といっしょにかくれんぼをしてくれたお姉ちゃん。
いつも私の味方をしてくれた男の子。
確かにいたはずなのに。
それってもしかしたら、イマジナリーフレンドってやつじゃない?
したり顔で誰かが、大切であたたかな思い出のすべてを
幻のように言ってくる人がいるかもしれない。
でも、その話ですら、ほんとうのほんとうじゃないかも。
あの頃のお姉ちゃんや男の子って、もしかしたら
きよちゃんみたいだったのかもしれないですよ。
だからまた、会えるんだと思います。