第5話 声の主は自称・神
「おお。勇者よ。死んでしまうとは情けない」
頭にそんな声が響き、俺は目を覚ました。
目の前には、やけに神々しい光を放つ丸い球体があった。
え……? なにこれ? てか、ここどこ?
「いやー、このセリフ、一度は言ってみたかったんだよね~。言えてラッキーって感じ?」
そんなことを考えていると、再び頭にそんな声が響く。
誰だ? おかしい。俺は、たしか頭に響く変な声に導かれて、屋上から飛び降りようとする美少女を助けようとしたはずじゃ……。
ん……頭に響く変な声?
「さてさて、そろそろ挨拶をしよう。やあ、少年。僕は君たちが生きる世界を管理する神だ」
その声と供に、俺の目の前にある球体が人の形へと姿を変える。
ああ、そうだ。
俺の頭に響くあの声は、この声と同じじゃないか。
「その通り。僕は、君の脳内に語り掛けていた張本人だ。さて、少年。結論から言おう。君は死んだ」
神を名乗るそいつははっきりとそう言った。
そうか。俺は、死んだのか……。ちなみに、あの美少女はどうなったんだ?
「彼女は生きてるよ。君の身体が奇跡的にクッションになって、軽傷らしい」
そうか……。なら、良かったのか、な。
「いいや、良くない!」
え。
「本当に良くないよー。折角、数少ない数奇な運命を持つ人間を見つけたのにさー。その人間が死んじゃうと困るんだよ。何で死んだんだよ。屋上から飛び降りたくらいで死ぬなよなー」
い、いや……そんなこと言われても、屋上から飛び降りたら普通死ぬだろ。
「あー、もうそういう言い訳とかいいから。もう、本当に仕方ないから今回は君を特別に生き返らせることにするよ」
え!? まじで!? いいの!?
「いや、良くないよ。でも、前例が無いわけじゃない。特別な運命を持つ人は、たまに生死の境から蘇るものだからね。君も、特別だ。頼むよ、少年。君だけがこの地球を救える可能性を持っているんだからさ」
え……? それって、どういう……。
***
目を覚ますと、そこは病院のベッドの上だった。
信じられないと言った表情を浮かべる医師と、泣きながら抱き着いてくる母親の顔がやけに印象的だった。
医者は奇跡だと言った。
死なない方がおかしい。君は化け物かね。とも言った。
両親はぶちぎれていた。
勝手に死にかけるな。こちとら、お前の大学進学用の貯金までしてたんだぞ。後、孫の顔を見せるまで死ぬことは許さん、と言いながら泣いていた。
ごめん。
それだけしか俺からは言えなかった。
お兄ちゃんって……バカすぎない?
妹は、呆れたような表情を浮かべていた。でも、その目は少しだけ赤かった。
そのことに、嬉しくなってニヤニヤしてたら、キモいと言われた。
テンションが下がった。
そして、あの子がお見舞いに来た。
そう、あの日飛び降り自殺をしようとした美少女だ。
「よっ」
病室に入ってきたその子に、軽く手を挙げてそう言うと、その子はボロボロと涙を流し、その場に崩れ落ちた。
「え……え!? ちょ、ちょっと待て! 俺なんかした?」
「ち、違い……ます……。ごめ……ごめんなさい……。私のせいで……私のせいで先輩が……」
全然泣き止まない美少女。
うーん。美少女が泣いてる姿を見るのは精神的にしんどいものがあるからやめて欲しいんだけどなー。
「まあ、そんな気にしないでくれ。俺がやりたくてやったことだ。そうだな。もし、君が罪悪感を感じているなら、もう自殺はしないでくれ。君みたいな美少女が死ぬのは悲しいからな。それに、俺でよければ君が幸せになるための手助けくらいはするからさ」
俺がそう言うと、その美少女は少し驚いたような顔をした後にコクリと頷いた。
その様子にホッと一安心する。
美少女の損失は世界の損失だからな。
「先輩……。その、ありがとうございました。よろしければ、先輩の名前を教えてくれませんか?」
「ああ。俺は神崎守。君の名前は?」
「私は月宮雫、一年生です。神崎先輩、助けてくれて本当にありがとうございました。神崎先輩が言ってくれた、死ぬときは二人一緒だって言葉、凄く、凄く嬉しかったです。お母さんはもういないけど、まだ私は一人じゃないんだって、そう思えました。だから、この命尽きるその時まで、末永くよろしくお願いしますね」
そう言って微笑む月宮さんの笑みに、何故か背筋がヒヤリとしたが、きっと気のせいだろう。
こんな美少女に恐怖を感じるなんてことあり得ないのだから。
神の声が聞こえるようになった結果 わだち @cbaseball7
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