解決不能

@HasumiChouji

解決不能

「違う、そんな意味じゃない」

 その国の大統領は、自分に自動小銃を差し出した悪魔をそう怒鳴り付けた。

「御安心下さい。閣下の身体能力を大幅に上げて、筋肉量は3〜4割増し、銃弾は絶対に当たらないように……」

「確かに、テロリストの捕虜になった我が国の兵士をこの手で助けたい、と願ったが、1980年代のハリウッド映画の主人公になりたい訳じゃない。『この手で』とは比喩だ。私自身が救出に行ってテロリストと戦いたい、って意味じゃない」

「ああ、なるほど。つまり、大統領の手柄だと世間が思う形で、捕虜になった兵士を救えれば良いのですね?」


 その大統領の支持率は低迷していた。

 そんな時に起きたのが……外国に駐留していたその国の軍隊の兵士達がテロ組織に拉致される、と云う事件だった。

 テロ組織は、ある要求を突き付け、それを拒絶するか48時間以内に回答が無い場合は……その兵士達を処刑する、と宣告していた。

 兵士達が処刑されても、テロリストの要求を呑んでも……大統領に2期目が無い事は確実だった。


「では、私の方で、この国の国民が大統領の手柄だと思う形で、兵士の皆さんを救出する手筈を整えました。成功率は100%です」

 大統領が最後の手段として呼び出した悪魔は、そう言った。

「そうですね……」

 続いて悪魔は自分の左手を見せて指を弾く真似をした。

「このように大統領が左手の指を弾くのが合図です。それから、1時間以内に事態は全て解決します。あ、もちろん、6つの魔法の石も金色のガントレットも不要です」

「なるほど。判った」

「では、この時点で、大統領と救出される兵士の皆さんの魂は、死後、私のものになる、と云う契約が成立したと見做してよろしいでしょうか?」

「ああ」

「では……早い内に指パッチンを……あの……大統領……どこへお出かけで?」

「次の大統領選挙の選挙運動だが、何か?」


「我々はテロには屈しない。テロリストの要求を呑む事は無いが……同時に、我が国の兵士達は必ず救出する」

 野外のステージで大統領は聴衆に向けて、そう告げると……左手を上げ、指を弾こうとした……その瞬間……。

 銃声と共に、大統領の左手は消えた。


「この度は……まことに……何と申しますか……その……」

「き……貴様……こうなる事を知っていたな……」

 悪魔は律儀にも入院した大統領の見舞にやって来た。

「とんでもない……。ですが……私も商売ですので……」

「何だ?」

「一度、売買契約が成立した魂は私のものです」

「ま……待て……きさま……」

 病室のTVには、ニュース番組が表示されており、大統領暗殺未遂事件の容疑者が逮捕された事と、大統領が病院に担ぎ込まれ、意識を取り戻す前に、テロリストが通告していた48時間が過ぎ、捕虜の兵士達が処刑された事を告げていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

解決不能 @HasumiChouji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ