第8話 宅配便


 ピンポーン。


 マンションのエントランスからのインターフォンが鳴った。


『宅配便です』


 帽子を被ったお兄さんがインターフォン付きのモニターに映る。


「はい」


 エントランスからマンションの中に入る内ドアのロックを開ける。


 最初の荷物が送られてから今日で6日目だ。


 5日前、注文した覚えも何もない宅配便が送られてきた。箱の上に張り付けられた伝票に書かれた送り手は聞いたこともない会社で、調べても連絡先もわからなければ何の会社とかも分からない。受け取り手の名前欄には俺の名前がしっかり書いてある。


 恐る恐る運ばれてきた箱を開けると箱の中には、ビニールの緩衝材に包まれたマネキンの左足が入っていた。男女のマネキンで足の形が異なるのかは知らないが、その左足は女性型のマネキンのものに思えた。


 4日前は、マネキンの右足。そして3日前は、左手。一昨日は右手。昨日は胴体で明らかに女性型のマネキンだった。


 おそらく今日は頭の部分が届けられるのだろう。誰のいたずらかわからないがずいぶんお金のかかったいたずらだ。


 玄関口で受け取った宅配便を居間に運んで箱を開けてみると、ビニールの緩衝材の中からマネキンの頭の部分が出てきた。箱の底にはマネキンの組み立て方が書かれた紙が1枚入っていた。頭部には髪の毛は付いていなかった。顔の造作は鼻筋だけで、あとはのっぺらぼう。


 紙を見ながら組み立て終わったマネキンを見ると、デパートやアパレルなどでありがちな衣装用のマネキンに見える。マネキンを床に転がしたままでは邪魔なので、ダイニングターブルの椅子に座らせておいた。物は言わないが、人一人が増えただけで、灰色だった部屋の色に少しだけだが温かみが加わった気がした。



 翌日。


 ピンポーン。


 マンションのエントランスから、今日もインターフォンが鳴った。


『宅配便です』


 帽子を被ったいつものお兄さんがインターフォン付きのモニターに映る。


 受け取った宅配便の箱を開けてみると、1週間前と同じ、ビニールの緩衝材に包まれたマネキンの左足が入っていた。違いはマネキンの足が男性型だったことだ。


 それから5日、毎日マネキンの部品が届けられ、男性型のマネキンが1体出来上がった。そのマネキンは最初の女性型マネキンの隣に座らせてやった。



 ピンポーン。


『宅配便です』……。


 今度は、子供型のマネキンが出来上がった。


 出来上がった子ども型のマネキンを男女のマネキンの向かいに座らせてやると、マネキンの家族が出来たようだ。


 その3体の座るダイニングテーブルの回りだけ暖かそうに見える。


 この家の中で不要なのは自分の方なんだといやでも気付いてしまった。




 ピンポーン。


『宅配便です。お荷物を受け取りにまいりました』




[あとがき]

短編集なので完結はおかしいですが、いちおう全8話ということで。

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遊斎志異 山口遊子 @wahaha7

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