第7話 博徒


 修造は若いころから博打が大好き。


 三十過ぎてもいまだに使い走りのチンピラでなかなか上に行けません。


 そのせいかどうかは分かりませんが、このところ博打で負けが込んでしまい、いよいよ首が回らなくなった挙句、とうとう組のお金に手を出してしまいました。


 普通なら袋叩きに合って半殺しの目に合うのですが、兄貴のとりなしで何とか小指1本で勘弁してもらいました。


 そんな目に遭っても修造は博打を止められません。さきほど兄貴にもらった小遣いを握りしめてさっそく賭場に駆け込みました。


 小指に巻いたさらしには血がにじんで傷口がずきずき痛みます。


 丁、半。……。


 今日は面白いように狙ったサイコロの目がでます。その日は久しぶりに大勝ちをした修造でした。次の日も、狙ったサイコロの目が出続けて、また大勝ちをしました。その日も、まだ小指の痛みは続いています。十日ほど勝ち続けましたが勝ち金は指の痛みが引いていくのと同じように、だんだん少なくなっていきました。


 そのあとは、日が経つにつれ負けが込むようになり、とうとう修造は集めたショバ代も半分ほど手を付けてしまいました。


 集めたショバ代を組に届けなけらば今度こそ袋叩きです。切り取った小指の傷はもうすっかり治って痛みも引いています。


――もしかして俺が博打で勝てたのは、指を落としたからじゃないだろうな。


 そう思いついてしまった修造は、長屋に帰り、指を切り落とす準備を始めます。


 紐とさらしと焼酎を用意しました。用意した紐で残った小指の根元をきつく縛り、短刀で思い切って小指を切り落とし、急いで焼酎を吹きかけさらしを巻きました。

 痛みをこらえて残ったショバ代を握りしめ賭場に駆け込んだ修造ですが、指の痛さも忘れるほどの大勝ちをしてしまいました。


――やっぱりそうだったんだ。指を切り落とせば俺は博打でいくらでも勝てる。



 一年ほど修造はそんな生活を続けていました。


 いまでは、指無し修造と呼ばれています。


 兄貴もそんな修造を見るに見かねて何度も諭しましたが、その時限りで何の効果もなくとうとう兄貴も修造を見捨てました。


 修造が最初に小指を詰めてから2年が経ちました。今では修造は足の指も含めて1本も指が残っていません。


――もう切り落とす指がねえがこの耳を切り落としたらなんとかなるかもしれないぞ。


 修造は慣れたもので、指の1本もない手で器用に短刀を操り、左耳を切り落としてしまいました。


 そして、1月も経たず右の耳も切り落とすことになりました。


 そうまでした修造でしたが、賭場も客商売ですから、化け物のようになった修造を客が怖がるようになり、とうとう修造は賭場への出入りが禁止されてしまいました。



 それから何日か経ち、一人のお侍さんが、町の近くの墓場で一匹の化け物を切り捨てたというので、翌日役人がその場所に行ってみると、野犬に食い荒らされて小さくなってしまった何だかわからない生き物の死骸が転がっているだけでした。

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