これからは一緒に住むお姉さんに
「……これは」
ふと、俺は不思議な光景を目にしていることに気づいた。
どこか見覚えがあって懐かしい光景、あぁそうかと俺は納得した。これは過去の光景、たぶん夢でも見てるんだろう。
夢を夢だと認識できるのは稀であり、俺自身凄く驚いたことでもある。
一体これは何の夢なのか、それを考えていた時だった。俺が歩いた先にあったのは実家の近所にある公園、そこのブランコに一人の女性が座っていた。
「……あれは」
見間違えるわけがない、俺はあの女性が真白さんだと気づいた。気づくと言っても今より若干幼いくらいでそこまでの変化はない。相変わらず美人だなぁと見惚れてしまいそうだった。
「……ってあれ?」
っと、そこで気づいたのだが何だか俺の視界が低い気がした。まさかと思って目に見える体の部分に目を向けてみると、俺が想像した通りだった。手も足も、その全てが小さい。まるで子供の頃に戻ったみたいに。
「夢……だよな?」
まるで過去に記憶を持って戻ったかのような錯覚を覚えてしまう。漫画とかでよく見る記憶を持ったまま昔に戻ったのか? なんて思ってしまったことがそれこそあり得ないだろと判断して俺は苦笑した。
このままあそこに行ってもいいものだろうか、そんなことを考えて俺はどうすべきか迷っていた。そんな中、俺の存在に真白さんが気づいた。真白さんは驚いたように目を見開き、すぐにこっちに来てというように手を振った。
俺はその手招きに応えるように彼女の傍に近づいた。傍に近づいた俺を真白さんは抱きしめようとしたが、何かを変に思ったのか踏み止まった。そして、釈然としない様子ながらもこんな風に真白さんは口にするのだった。
「これは……夢かしら。あなたはたか君だけど……たか君じゃない? ううんそんなことないわ。あなたはたか君……でもちょっと雰囲気が大人っぽい?」
「……まさか」
この真白さんは今の真白さんではなく昔の真白さん? なんだか良く分からないことになっているが、これが夢なら別に気にすることでもないのか。目が覚めれば俺は元の場所に戻り、俺の知る真白さんと共に居る。いや、この真白さんが本当に過去の真白さんなら彼女も俺の知る真白さんか。
「どうも、高校生の工藤隆久です」
「……ふふ、何よそれ。信じられない……でも信じてあげる。たか君だもん」
俺が隆久だと分かっているから真白さんは信じてくれることにしたらしい。
「どうしてこんな夢を見ているのかな? どうして未来のたか君がこんな形で現れたのかな?」
「……ちょっと分かりませんね俺には」
「だよね。私にもさっぱり分からないわ」
それが分かれば苦労はしない。
俺は真白さんの隣の空いているブランコに腰を下ろすと、何故か真白さんが不満そうな目を向けてきた。どうしたのかと思っていると、ポンポンと自分の膝の上を叩いた。
「……乗れってことですか?」
「うん♪」
あ、この笑顔は間違いなく真白さんだ。
俺は少しだけ遠慮するような素振りで真白さんの膝の上に腰を下ろした。真白さんはやっと来てくれたと嬉しそうに俺を抱きしめた。今よりもやっぱり少しだけ小さい真白さんの胸だけど、とてつもない柔らかさと安心感を与えてくれることに変わりはなかった。
「不思議ね。夢なのにとても温かい、夢なのにとても安心出来る」
「俺もですそれは」
「……俺か。たか君は僕って言ってるけど俺ってのもアリね!」
「いやだって高校生ですもん」
「それもそっか」
いや、別に俺が隆久なのは間違ってないけど流石に真白さん疑わなさすぎではないだろうか。そんな俺の疑問が分かったのか、俺の頭を更に強く抱きしめるようにしてこう言葉を続けた。
「たか君だって分かるもん。何というかね、魂っていうか……う~ん、言葉で説明しにくいんだけど、とにかく分かるの!」
「わぷっ!?」
くるっと体を回転させられ、正面から真白さんに抱きしめられた。そこまで強い抱擁ではないので何とか顔は抜け出すことが出来たが、真白さんの胸を顎に当てるようにして彼女の顔を見上げる形だ。
「本当に可愛いなぁ……ぐへへ」
「……あぁうん。やっぱり真白さんだわ」
この笑い方は真白さんだ完全に。
目をハートにした真白さんがそのままキスをしてこようとしたのだが、寸でのところで我慢するように顔を他所に向ける。
「くぅ! 夢だからって駄目よ真白! 二十歳になるまで我慢すると言った誓いを忘れたのかしら真白おおおおおおおおおお!!」
「お、おぉ……」
なるほど、こんな風に昔の真白さんは俺に会いたいって思ってくれていたのかな。
「はぁ……はぁ……は~」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。ふぅ、落ち着いたわ」
はは、何だろう。こうやって昔の真白さんと話をしているのは凄く楽しかった。新鮮な気持ちにもなるし、何より現在の自分より年下だから余計に可愛く見える。俺は小さな手を伸ばし、真白さんの頭を撫でてみた。
「あ……ふみゃぁ」
「猫みたいだ」
これもこれで経験したことがあるようなないような。
そんな風に頭を撫でていると、唐突に俺は体が引っ張られるのを感じた。たぶん夢が終わろうとしているんだ。真白さんもそれに気づいたのか行かないでともっと強く抱きしめるけどダメだった。
「あ、たか君……ダメ……っ!」
涙を流す真白さんを見ると心が苦しくなる。
でも、俺はちゃんと伝えたかった。この出会いに意味なんか存在せず、起きたら忘れているかもしれない。それでも、俺は伝えたかったんだ。
「真白さん! 俺、あなたのことが好きです! 誰よりも好きです!」
「あ……」
「その……とにかく大好きですから! だから結婚しましょう! 絶対、絶対に一緒に未来を歩きましょう!」
この小さい体だと何言ってるんだって話だがそれでも伝えたかった。
俺に手を伸ばしても無駄だと知った真白さんは手を引っ込め、その代わりに涙を流しながらもしっかりと笑顔を浮かべてくれた。
「私、信じてもいい? たか君が好きって言ってくれたこと。信じてもいい?」
「もちろんです! 大好きです真白さん! 愛しています!!」
「ずっと一途になってもいい? たか君だけを好きになってもいい? たか君だけをどうしようもないほどに想ってもいい?」
もう声は出なかった。
その代わりに俺はしっかりと頷いた。
「未来のたか君から許可は取ったわ! これを覚えてなくても、きっと私の魂がそれを覚えているから! もう刻み込んだからね!? たか君のことを一途に想うことを今ここに誓ったからね!?」
そんな声を聞いたところで、俺は目を覚ますのだった。
「……っ」
「……すぅ……たか君」
……あぁそっか。真白さんの部屋で寝たんだっけ。
お互いの裸で全てを曝け出している状態、狭いベッドだからこれでもかと体を密着させていた。夏なのに妙に暑くないなと思っていると、どうやらちょうどいい温度でエアコンが付いていたらしい。
「……何か夢を見た気がする」
何の夢だったか、全然思い出せないけど。とても大切な夢を俺は見た気がする。その夢はたぶん真白さんに関係するものじゃないか、そんなことを当然のように俺は思った。
「……………」
ジッと真白さんの顔を見つめていると、ゆっくりと真白さんの目が開いた。少しだけボーっとしていた様子の真白さんだが、俺を認識した瞬間ふにゃりと表情を和らげた。
「たか君だぁ~チュ~」
チュッチュッと啄むようなキスをしてくる。
たぶん全然目は覚めてなくて寝ぼけている感じだろうけど。腕を回して真白さんを抱きしめ、背中をリズム良くトントンと優しく叩いているとしばらくしてさっきと同じように寝息が聞こえてきた。
「……真白さん、結婚しましょう」
結婚しましょう、あれ……なんでいきなりそんなことを口にしたんだろう。別にいずれそうしたいと思っているから間違いではないんだけど……う~ん。
「ま、気にしても仕方ないか」
真白さんは眠ってしまったものの、俺は目が冴えてしまって寝付けない。なので俺は真白さんと今までのことを思い浮かべることにした。
マンションに引っ越して来た時、なんて綺麗な人なんだとそんな出会いだった。
とにかくスキンシップが激しくて、その魅力的な肢体を惜しげもなく使うようにアピールしてくるんだから本当に理性が砕け散りそうだった。
ま、結局付き合ってからすぐに砕けたんだけど。
隣の部屋に住むお姉さんがエッチすぎる件、真白さんにも伝えたけどずっとそう思っていた。
でも今は一緒の部屋に住むお姉さんがエッチすぎる件……なのかな。それとももう少し進むと一緒に住むお嫁さんがエッチすぎる件? みたいな感じになるのかな。何にしても真白さんが俺にとってとても愛おしい人であり、いつまでもドキドキさせられるエッチなお姉さんというのは変わらない。
真白さん、これからもどうかあなたの傍に居させてください。
隣に住んでいた男の子としてではなく、一緒に住む男の子としてあなたの傍に。
【あとがき】
ということで、これを持ちまして今作は完結となります。
思えば三カ月と少し、みなさんのご声援もあってほぼ毎日投稿を続けることが出来ました。本当にありがとうございました。
一応続編として、一緒に住むお姉さんがエッチすぎる件みたいな感じで始めようと思っています。やっと題名が息をする時が来たんだなと嬉しくなります(笑)
ただ、少し休みたいので期間は空くかもしれないし、もしかしたらすぐに投稿するかもしれないですがその時はまた是非読んでくださると嬉しいです。
それでもみなさん、一旦さようなら!
隣の部屋に住むお姉さんがエッチすぎる件 みょん @tsukasa1992
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