第6話 潜入
チカチカと今にも消えそうな電飾が俺たちを誘い込む。
そこは薄暗く、かすかに波が堤防に当たる音が地面を伝って聞こえてきた。
そのフェリーは入口の足元を照らしているだけで、フェリーの全貌を視認できなかった。それはあたりが暗くて見えないのか、フェリーが大きすぎて見えないのか。
前者だとそのとき俺は思ったが、のちのち後者だったと気づかされるのだった。
デスクトップにコピーしたバーコードを部屋にあるプリンターで印刷する。
文具店で買ってきたフィルムシートをプリンターの背にセットして、プリンターにあるスタートボタンを押す。
このときのスタートボタンは第二の人生のスタートボタンとなった。
バーコードが印刷されたフィルムシートは静かにこの世界に誕生した。
康太はドラッグストアに売っていたうすだいだいのテープで左手首のバーコードを覆った。そして、その上から新しいバーコードを張り付けた。
自分の手首に張り付いたバーコードは確かにこの体に埋め込まれた。
そして、悠人はハッキングした新島翔のメールボックスを開くと来週の日曜日5月21日に開催されるクルージングパーティーの招待状が届いていた。
絶好のチャンスだ。このパーティーに忍び込もう。
場所は白真港。家から車で30分ほどの場所だ。
意気揚々とする康太を横目に悠人はまだ重要な問題があることを分かっていた。
新島翔がクルージングパーティーに来てしまうことだ。
新島翔が2人も会場にいるとバレるのは目に見えている。どうにかして新島翔を船に入れないようにするしかない。
だがどうやって。
「監禁するの?」
「いやしないよ。僕たちがハッキングしたとき、招待状は1時間前に届いていた。招待状はメールボックスから削除したから、新島は招待状がきていることも知らないよ」
流石俺の弟。先の事まで見えている。頭が良いやつはやっぱり違うな〜。
呑気に弟の頭の良さに感心しているとあたりはぽつりぽつりと街灯が灯る港に着いていた。
「悠人ありがとうな、ここからは俺が頑張ってくる」
車を降りると潮風が頬を緩やかに伝う。
「じゃあ頑張って」
悠人はそう言って港から離れていった。
そして康太は港にとまる大きな影に向かった。
乗り場に着くと身長が190センチほどある長身の男性が2人黒のスーツを着こなし立っていた。
頭の中を全て見透かしているような男の眼差しに足がもつれそうになるが、必死にいつも通りの歩き方をまねした。
男の目の前に立つと、
「バーコードを見せてください」
低く鐘の音のような声は康太の体を武者震いさせた。
恐る恐る左手首を差し出す。
スーパーマーケットのレジで使うスキャナーとは違い、真っ黒の四角い箱のようなものを手首の上に置かれ、すぐに箱の上面にある液晶画面に新島翔と表示された。
「中へどうぞ」
全く声のトーンを変えずに言う男と裏腹に康太の体は重力を感じないほど軽く感じた。
木製の掛橋を渡り、いざクルーズ船の中へ足を進める。
天上パスポート 柊木賢人 @tr8
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