妖精は夏まで

どんよりとした空

爽やかでひんやりとした空気。

僕の前には厚めのトーストとブラックコーヒー。

向かいの席には二段に積まれたパンケーキとオレンジジュース。

あの子はそのパンケーキにたっぷりとメイプルシロップをかける。

僕はトーストにマーガリンを軽く塗ってひとかじり。

あのもやもやした空気はいったいどこに。

眩しい日差しと朝もやの中

僕はあの子に手を引かれて歩いていた。

あまりの眩しさに僕は日差しを手で遮った。

そして次の瞬間、よく見なれた景色が僕の前に現れる。

「妖精は夏まで」

「もうおしまいなのです」

あの子は僕にそう言うと、

微笑みながら僕の手を引いて喫茶店の中へ。

「やさしくしてくれてありがとう」

あの子は美味しそうにオレンジジュースを一口飲む。

あの子を抱き寄せたときの感覚が僕をかすめた。

僕は何を話してよいかわからずにトーストをかじる。

「ジャムはつけないの」

あの子が手つかずのジャムを見ている。欲しいのかな。

「ジャムもつけた方が美味しいよ」

あの子がそう言ってにっこり笑う。

僕はジャムの容器を開けてトーストに塗った。

あの子はずっとそれを見ている。

僕はジャムとマーガリンを塗ったパンをかじった。

「美味しいね」

あの子は満足そうに僕を見てうなずく。

「夏が終わったらどこに帰るの」

「あなたの中だよ」

あの子が手を振りながら僕から離れていった。

僕は急ぎ足で駅に向かう。電車に飛び乗るために。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

妖精の夏 阿紋 @amon-1968

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る