魔法学園と鬼氣使い(ヤンキー)

みっしゅう

プロローグ【弥上ヒロトという男】

 人気ひとけのない路地裏ろじうらおくでは、ひそかに暴動が起きていた。

「おわっ…!」

「あ…兄貴!?」

 ガラの悪い男2人を追いめていたのは、そこにいた一人の青年…──彼のたたかいのセンスは、男に反撃の余地よちすら与えなかった。

「とっとと消えろ。そのツラ天道テントーもと二度にどさらすな」

 青年はいきを切らさずにややかに対応していた。

 たたかった相手の実力もかなりのものだが、この青年の前ではまるで相手にならない。

 狡猾こうかつな手などなに一つ使わず、一対一ステゴロで圧倒的な勝利をおさめていた。


「このガキ!俺達の組に手ェ出して、ただで済むと思うなよ!」

「そうだそうだ!」

 青年は、声をあらげる二人に鬱陶うっとうしそうに舌打ちした。

「…そっちの組の悪事は、すでにサツにチクってやった」

「「何ィッ!?」」

「実はそっちの組のヤツとは戦ったことがある、1対60でな。初めてちょっとだけ呼吸こきゅうみだしたわ」

「バッ…バケモノ…ッ」

 なかなか消えない二人に、青年はいよいよ表情を変えた。

「…とっとと消えねぇか…──…殺すぞ…?」

「「ひ…っ!」」

 しずかに威圧いあつする青年におそれおののき、二人は一目散いちもくさんげ出した。


 ──男たちが見えなくなったのを確認して、青年は後ろを見る。

「おいババア。もういいぞ」

 そう言うと青年の後ろからは、5さいほどの子供を連れた老婆ろうばが出た。

「ああ…ありがとうございます!」

「お兄ちゃんありがとう!」

 青年は子供に感謝されたが表情をゆるめず、舌打ちして睨みをかなかった。

「ふざけんな…てめえがアイスクリームをズボンにひっかけたんだろうが…」

「ご…ごめんなさいっ!」

 子供は表情を暗くしてあたまを下げた。

 ヒロトはその様子をしばらく見て、睨みをやわらげたような気がした。

「おい…次からはねえと思え?」

「…うん」

 子供がうなずくと、青年は背を向け歩きだした。

「お兄ちゃん、名前は?」

 歩く彼の名前を子供はたずねる。

 もうきっと会うことはないと思い、青年は名を名乗なのる。

弥上やがみヒロトだ…──じゃあな」

 そしてそこから、ヒロトは見えなくなった。



「はぁ…」

 ヒロトは、公園のベンチで溜め息をついた。

 彼は先程さきほどの暴動から、どこか不機嫌ふきげんそうである。

「(…ったく、何で俺がババアとガキなんて…)」

 だが、あそこでヒロトが駆けつけなければどうなっていたか。

 ヒロトは木漏こもらされながら、二人の笑顔えがおを思い出すのだった。



 横断歩道…

 ヒロトのとなりには、ランドセルを背負せおった少女が立っていた。

「あっ!」

 彼女は信号の向こうがわの少女に手をって、走り出す。

 ──赤信号だと知らずに…

「なっ…!バカがっ!」

 大型トラックが少女に接近する。

 運転手は急ブレーキをむが、簡単には止まらない。

 少女2人の表情も、絶望に染まった。

「うぉああーっ!!」

 ヒロトは本能的に、走った。

 ランドセルにうでが届き強く押すと、少女は横断歩道の奥へところがった。

「ヤバ…っ!?」

 ドンッ──というにぶい音と共に、ヒロトの意識は消えた。



 自分は死んだのだろうか…いや死んだ筈だ…なぜなら頭からぶつかったから──ヒロトは、無いはずの意識下で考えていると──…

 ざわざわ…

「…?」

 …違和感。

 周りが急ににぎやかになった。

 ヒロトが目を開くと、目の前には…──

「…学校?」

 だが学校と思われるその施設しせつは、マンション9つ分くらいの大きさだ。

 そしてまわりには、見たこともないデザインの制服を着た生徒らしい若者も多くいる。

「あれ…?」

 ヒロトは、いつの間にか自分もその制服を着ていたことに気づく…──当然だが着替きがえた覚えはない。

 さらに見渡みわたしてみると、そこには目をうたがう光景があった。

「…!」

 周りの人間は、ゲームで見るような魔法を使っていた。

 目の前のことを全く信じられない。

「何だこれ…──」

 ヒロトはパニックの胸のうちを、一気にさけびとともに開放する。

「何なんだこれはああーっ!!」

 大絶叫が響き渡るのに、周囲は耳をふさぐのだった。

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魔法学園と鬼氣使い(ヤンキー) みっしゅう @n8078eq

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