第293話

「リックちゃーん。少し良いかしらー?」


 一悶着も終わり。のんびりとした朝食の時間も終わって、日課を始める為にテーブルに突っ伏してぐーたら力の回復をしてると、エレナから声をかけられたんでのそりと顔を上げる。


「なに?」

「さっきルッツくんの部下の人に聞いたんだけどー、リックちゃんが魔導具作ってくれたら良い寝具がもらえるって本当かしらー?」

「本当だよ。ただし、ルッツを1番偉くしないと駄目らしいけどね」


 作るだけでくれるなら速攻で魔導具を作ってやる所だけど、家族分くれるには総会の長にならないといけないらしいからな。

 逆に言えば、そうなればその位の物を用意できるて事になるんだろうけど、はっきり言って砂糖の一件で欠片も信用がないんで断ってるってのを言ってなかったっけか。


「その件は――」

「じゃあー、リンちゃんの代わりにリックちゃんも魔道具作っちゃいなさーい」

「え? 嫌だけど」


 確証が無いのに労働するなんて、ぐーたら道に反する。なので、リンに全てを押し付けようとしたらあんなことにっちゃったわけだね。

 でも結果として、リンは変わらず魔導具の制作意欲を失わずに済んだんで、俺の出る幕はないのだ。


「あらー。リックちゃんらしくないじゃなーい。こういう場合ー、すぐ飛びつくじゃないのー」

「確証が得られないじゃん? ルッツが1番偉くなったかなんて」

「あら大丈夫よー。お母さんがルッツくんにちゃーんと問いただしてあげるからー、心配無用よー」


 ……確かに。ぐーたら神すら恐れ慄くエレナのあの圧に、屈さない人間が居たら見てみたいな。救国の酒カス英雄ヴォルフですらビビるくらいだ。副会頭やルッツ程度じゃあブチ切れする前にあっさり白状するかもな。


「確かに。母さんが聞いてくれたら誰であろうと本当の事を話すかもね」

「そうでしょー。だから作ってみないかしらー?」

「うん。作らないねー」


 だとしても、俺が1番を取れる可能性は100じゃあない。あくまで帝国の魔道具に負けない物をとの要望なんで、ダンジョン産の魔道具を用意されたらワンチャン負けるかもしれない。

 そうなったら完全な無駄な労働になるんで、それはぐーたら道に反するし、何より天罰が怖いから、どんな結果だろうと家族分の高級寝具をくれるって条件じゃないとやらないって事をエレナに伝えると、当たり前だけど困ったような顔をした。


「リックちゃーん……それはさすがにどうかとお母さんも思うわよー?」

「だけどタダ働きは、ぐーたら的にはもっとも忌むべき行為だからさ。どうしても無理なんだよねー。一応1組だけならいいよって言ってたけど、それだと俺が使える保証ってないじゃん?」


 こうして話を振って来たって時点で、目論見通りエレナも高級寝具に興味津々って訳だ。当然アリアも欲しがるだろうし、サミィも参加してくるだろう。

 そうなったらどうなるか。言うまでもないだろう。なので作らない。


「……そうねー」

「って訳なんで、俺は今のところやらないからー」


 このままだと延々と話が続いてぐーたら出来なくなりそうだから一時退散だ。

 ささっと席を立ち。逃げるように家を飛び出すとすぐさま土板を作って飛び乗って村へ。


「やれやれ……副会頭のせいでぐーたらも出来やしねぇな」


 とりあえず、魔石の魔力はそう簡単に切れるわけでもないはずなんで、広場の確認は後回しで畑仕事の方を先に片付けるとしますかね。


 ――――


「よっすー……」

「おおリック様――何かお疲れみたいですだが、大丈夫ですだか?」

「あー……そこそこ疲れてるけど、やる事に影響はないから心配しなくていいよー」


 ここ最近――本当に毎日毎日畑仕事以外に働かされ過ぎてぐーたら力が微減してるんだよねー。

 このままだと、そう遠くない未来に本当に降段させられちゃうかもしれないから、使い惜しみせずに1日ぐーたらの権利を行使するのも良いかも知んないなー。


「さて……こんなもんだね」

「ありがとうごぜぇます。所で、聞きてぇ事があるだけんどええですだ?」


 畑仕事をしてる最中、村人がずーっとそわそわしてる感じだったからなんかあるんだろうと思ってたけど、何やら質問があるらしい。


「んー? 別にいいけど何さ」

「へぇ……実を言いますと、昨日来た馬車に関しておっかぁがどうなってるんだと言ってるんでさぁ」

「え? まだ解決してなかったの?」


 1日経って誰も家に来ないから、てっきりルッツのトコの従業員がちゃんと説明し終わったんだとばっかり思ってたのに、まさか解決してないなんてマジでビックリだよ。


「違ぇますだ。今回、いつもと違うもんさ乗っけて村に来た理由は馬車に居た人からさ聞いとりますんで大丈夫ですだよ」

「紛らわしいなぁ。じゃあ何が聞きたいのさ」

「次の食料さちゃんと来るんだか? っちゅうのをおっかあに聞いてこいとケツさ引っ叩かれたんですんで、ここで聞いておかんと飯抜きさいわれちまうですだ」

「そりゃ災難だねー」


 うん。やっぱりこの世界の既婚者は、10割の確率で女性上位の生活を送ってるっぽいな。俺が知る限りだとマジで例外がない。別に他意はないけど、俺から見ると本当に結婚は墓場って感じるねー。


「ってか。そう言うのに関しては副会頭に直接聞いたほうがいいんじゃない? 取引上、あっちの方が正確に把握してるはずだからさ」


 時間にルーズな生活を送ってると、日にちの感覚なんて全くと言っていいほど興味がなくなるのは仕方ない事だと思う。

 なので、エルフ印の薬草とドワーフ謹製の調理器具を取引するために月に1回というペースを守って売買の為にやって来てるだろう側の人間に聞くのが、最も手っ取り早いし確実だと思う。


「分かりましただ。そっだらすぐにでも聞いてみるとしますだよ」

「おう。ほいじゃあ俺は次の畑に行くから、そっちはそっちで頑張ってねー」

「ありがとうございましただよリック様」


 土板に乗り込んでしばらく。村人の姿が見えなくなったのを確認してから小さくため息をつく。

 やれやれ。出来る事ならそっちで勝手に聞いておいて欲しかったなー。そうすれば、今のやり取りもやらずに済んだんだけどねー。

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ぐーたらライフ。~これで貴族? 話が違うので魔法で必死に開拓します~ 開会パンダ @kaikaipanda

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