第292話

「いやー。まだ聞きたい事があったのすっかり忘れてたわー」


 へらへらとした態度で玄関前に居るのはリン。ついさっき帰ったばっかだってのに、朝飯を食い終わってしばしぐーたらタイムとリビングでボケーっとしてたら、リンが来てるぞとアリアに引きずられるように連れていかれ今に至る。


「なんだよ」

「どんな魔道具作ったらいいかな?」

「なんでもいいだろ。っていうか、リンは火の魔法陣しか作れねーだろ?」


 教えてないってのもあるけど、火の魔法陣が一応ではあるけど1番シンプルなんで、これが完璧に彫れるようになれば徐々にレベルアップさせていく予定なんで、今はまだ素人に毛が生えた程度でしかないからな。


「だから聞いてんじゃん。火だけで何かすげー魔道具作れねーかって」

「自分で考えろよ」

「考えて駄目だからリックに聞いてんじゃん」

「火だけでねぇ……」


 一応コンロとか暖房とか生活に便利な魔道具は火の魔法陣だけで作れるっちゃ作れるけど、生活に根付いた魔道具が王様にすげーと思われるか? と問うたら微妙じゃね? と俺は思う。

 何せ相手は生活の一切を他人任せに出来る圧倒的権力者。そんな相手に対してコンロだの暖房だのをプレゼンしても――「別に要らなくね?」の一言で一蹴される未来しかないっぽい。

 ってなると、手っ取り早いのは兵器運用だな。これであれば高火力であればあるほど諸手を上げて喜ぶんじゃないか? となるので、勝ちを目指すのであれば断然破壊力一択だろ。


「兵器でどうだ?」

「へいきってなんだ?」

「魔物や人を殺す道具って奴だ」

「えっ……」

「これであれば、王様の心証も良くなるだろうから、リン程度の魔道具でも万が一程度かもしれないが、ルッツに多大な恩を売れる可能性——もが?」


 折角勝ちが拾える可能性についてリンに滔々と説明してたってのに、背後から口を塞がれて続きが言えなくなっちゃったじゃないかと抗議の意味を込めてそっちに一応なりの睨みを利かせてみると、何故かエレナが居た。


「リックちゃーん? あなたに言うのも何なのだけどー、子供に刺激が強い事を言っちゃ駄目よー?」


 どういう事? とリンに目を向けると、元気――というかやかましいくらいのリンがなんか落ち込んでるっていうか明らかにテンションがびっくりするほど下がってるように見えるのをみて、確かに今の発言はちっとガキにはきつかったかと思い至る。


「……」

「分かったみたいねー。でもー、今回のお仕事はリンちゃんには無理そうねー」

「どうする? 魔道具作りももう止めるか?」


 ここで止めると言われるとぐーたらライフに影響が出るんで、可能であれば続けてほしいがさすがに無理強いは出来ないかぁ……。


「……いや。魔道具は作りてー。でも兵器は嫌だ」

「じゃあそれでいいんじゃないか?」

「いいのか?」

「俺もやりたくない事はしない主義だからね」


 別に強要するつもりはない。だって戦争なんてそうそう起きてもらっちゃぐーたらライフの邪魔になるから困るし、現状は救国の英雄である酒カスヴォルフが居るからね。多分ふっかけてくる国もないだろう。

 それでも、やっぱり王族の興味を引くのは大量破壊兵器だと思う。

 これであれば、帝国からやってくるっつう姫を相手に、俺等こんなモン持ってんすわ。かかってくるなら来てみろよって牽制にもなるしな。


「それであれば、君と話を続けても大丈夫なんだな?」


 一段落ついたタイミングで副会頭が現れた。どうやら一部始終を聞いてたっぽく、改めて問いかけると、リンは若干困ったような顔をしてるな。


「やりたくねーならやんなくてもいいんだぞ?」

「……いや。今のおれがどんなもんか知りてーからやってみてー」

「なら良いんじゃないか? 副会頭もそれでいい?」

「私としては、ルッツ会長を総会の長へと押し上げたいのですが?」

「その場合は俺を納得させるしか無いなー」


 俺であれば平気を作ることに一応躊躇いはないので、ぐーたらにとって有益な報酬を用意できる確約が出来た暁には作ってやろうじゃないか。

 まぁ、それが出来なければ、リンの作った魔導具程度じゃあルッツは最下位は免れな――いや、一応他の連中と違って比べ物にならない円を彫れるから、性能だけで言えば頭一つくらい抜きん出てるんじゃないか?


「って訳だから、リンは俺のアドバイス――助言は無視して、そこの副会頭と話し合って便利な魔導具でも作れば良い」

「なんかムカつくけど、嫌なもんは作りたくねーからそーする」


 とりあえず、時間が解決するだろうレベルの元気さを取り戻したっぽいリンは、村へと帰っていった。


「まったくー。リンちゃんが元気になったから良かったけどー、もう少し考えなくちゃ駄目じゃないのー」

「いやーごめんごめん。まさかあんな事になるなんて思っても見なかったからさー」


 異世界の人間ならあのくらいの事でショックを受けると思わんって。最近もウルフの生肉を持って帰る光景を何度も見てるからそういう耐性があると思ってたのが間違いだったなんてね。


「リックちゃんが強過ぎるのよー」

「父さんと母さんの血を継いでるからじゃない?」


 クソ神から耐性を貰ってるなんて言えないからな。こう言っておけば、なんとなく真実味を帯びてるようにも感じられるだろう?

 何せどっちとも傭兵として数々の戦場を渡り歩いて数千くらいは殺しまくってるだろうから、嘘だとしても真実味が強く聞こえるだろう。


「……本当かしらー?」

「他にどんな理由があるってのさ」

「それもそうねー。これからはーちゃんと気をつけるのよー」

「努力はするよ」


 覚えてられる自信がないので安請け合いはしないけど、今回のこれはぐーたらライフに影響しそうなんで、何とかなりそうな気はする。

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