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昨夜に母が作ってくれていたカレーを、弱火で温め始める。
そして、サランラップで閉じられた白米を1つだけ冷凍庫から取り出し、電子レンジに入れて解凍。
カレーの入った鍋が焦げ付かないようにお玉で混ぜながら、スマートフォンを手にとった。塾まであと一時間。5時40分に家を出たら、開始ギリギリに間に合うだろう。
鍋から湯気が出てきたので、火を止め、電子レンジから白米を取り出す。
熱々のサランラップを外すとふんわりと柔らかく、少し甘い香りが漂った。
皿によそっていると、気付けば、圭と千夏がすぐうしろに立っていた。
「まだ、千夏の好きな番組やってるよ」
二人に声をかける。あの番組はもう20分は続くはずだ。
「兄ちゃん、なんで一人だけごはん食べてるの」と、圭が聞く。
「これから塾だからだよ。二人は母さんが帰ってきたら一緒に食べな」
母は、近所のスーパーで週5日、レジのアルバイトをしている。日によって時間はまちまちだが、普段は夕方までには帰ってくる。
今日の母の帰宅は、二人がちょうどテレビが観終わる頃になると思っていたのだが、カレーの香りに誘われてしまったのだろう。どうやら二人の腹時計が少し、予定時刻よりも早まってしまったらしい。
しかし、今日は塾があるため、代わってあげることができない。
僕がわざと見せびらかすようにカレーを自分の口に運ぶと、圭は眉をひそめ、千夏はテレビ前に戻ってしまった。
「ただいまー」
ほどなくして、母の声と共にがちゃりと玄関が開いた。
両腕いっぱいに抱えたビニール袋を、ガサガサと鳴らしながら部屋へと入る母。
千夏と圭が玄関へと駆けていった。
「あのね、今日ね、みんなとドッチしたよ」
「リコーダーの上のドが鳴ったよ、それからね…」
帰ってきたばかりの母に、二人が同時に声を弾ませて話始める。
こんな時でもニコニコとしながら話を聞く母のことを、僕は時々、聖徳太子なのかな、と思ってしまう。
「母さん、おかえり」
僕の声掛けに反応し、圭と千夏が言い忘れていたと言わんばかりに「あ、おかえり!」と言って、すぐに話を再開した。
せいくらべ 実 @minori117
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