エピローグ 十年経った世界、現実へ

 目が覚めると、マルクは何故なぜか泣いていた。

 すごく長い夢を見ていた気がするが、内容は思い出せない。しかし、とても懐かしく、美しい夢だった気がする。

 窓の外から小鳥たちのさえずる声が聞こえる。普段は気にもとめない自然音だが、この時だけは何故か気になった。

 不思議なことに、何羽かの小鳥が鳴いている声が、時折美しい歌にも聞こえてくる。もっとよく聞きたいとも思ったが、今ここで窓を開けて外に身を乗り出せば、小鳥たちはすぐにでも逃げてしまうだろう。そう思い、マルクは一人ベッドの上で、静かに耳を澄ませていた。そう言えば、彼女に初めて会ったときも、小鳥の歌に誘われていたな。

「アリス……」

 今日は四月一日。ちょうど十年前の今日、マルクはアリスに出会った。

 様々な思い出が脳裏に浮かび、そして消えていく。しかし、不思議とさびしさはなかった。

「たまには、あの町に帰るか……」

 小鳥たちの歌は、まるで喜んでいるかのように明るく澄んだ音を響かせていた。


 その直後


「げっ! ズボンの中グチョグチョじゃねーか! 何だこれ⁉︎」

マルクは、朝一番からズボンを洗濯し、その後、里帰りをする準備を始めた。

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