第168話:そして俺は白い花を贈る。

 事件を解決して、数週経過した。お酒はほぼ日本酒と言っても良かった。価格は他国に持っていくと3倍は取れそうだと思う。製造過程や流通、女の立子施設の話をロドリーゴを交えた。お酒の利益の一部は施設へ使ってもらう約束もした。


 クリスティアンは消える気配が無い。とはいえ、人が消えるというファンタジーは、誰も経験が無いので、気配も何もないんだけど。


 アンシャンヌを出て行く前日、久々にエルフリーデと二人で過ごしている。


「プロポーズされちゃったね」


「そうだ……ね。しちゃったね」


 噴水のある広場のベンチに座っている。特になにかあるわけではなく、魚のサンドを食べながら座っているだけ。


「お父様になんて言おう」


「……素直に言うしかないよね」


 そう、エルフリーデは今更だが王女なのだ。三女ということで自由にさせてもらっている、とのことだけど、それでも国を揺るがす話である。


「リーゼロッテ姉さんは何て言うかなぁ」


「ブチギレ案件だろうね」


 お付き合いしている、って言うだけで目の敵にされていたけど、理由はわからないけど、あまり好かれていないようだったし。


「クラウディア姉さんにお願いしょうかしら」


「それができるならそれでも良いね」


 長女のクラウディアはまとめ役のようになってくれるだろうか。それよりも一員なるのであれば、俺が次女も説得するべきだろうか。


「二人の兄さんたちにはどうする?」


「そこは大丈夫じゃないかなぁ」


 なんとなく同性ということで理解してもらえそうな気がしている。仕事をしっかり生活の基礎を整えるのが重要かもしれないけど。


「あれ、もしかしてだけど、すでに伝わっている可能性ない?」


「どうして?」


 姿を見せないから忘れているけど、エルフリーデには忍びが付いている。本当のイザというときしか出てこないっぽいけど。


「リナ経由で知らされてたりしない?」


「あぁ……ぜんぜんあり得る話だったね」


「だよね……」


 といったところで、何か隠すわけではなく、方針を変えるわけではない。けど、報告時にすでに知られているというのは恥ずかしかったりする。


「どうする? 一旦報告するのにオイレンブルクへ戻る?」


「行かなくて良いんじゃない? それこそ知ってるだろうし」


 また全員集合してもらうとかも恐縮するので、今回はリナが知らせているだろうということで、旅を続行することにした。


「じゃあ、ここから西に行く?」


「どうして?」


「お酒の元の水があるっていうから、美味しい水なんじゃないかなぁと思って」


「それは良いね」


「美味しい水があるということは、美味しい食べ物もあるかもしれないし」


「ますます良いじゃない! いつ出発するの?」


「明日にでも?」


「良いね!」


 テンションも上がりきって、魚サンドも食べ終わっていたので、ベンチを立ち上がった。


「じゃあ、宿に行って荷物まとめなきゃね!」


 エルフリーデはピョンと立ち上がる。フワっとスカートが舞い上がる。元気な姿を見て、俺は安心する。そして、渡すものがあった。


「ちょっと、待って。これ――」


 差し出したのは白い花。


「――一輪だけど」


 思っていなかったことだったので、エルフリーデはキョトンと一瞬何が起きたかわかっていなかったが、それをすぐに理解し、受け取り、俺に抱きついた。 


「……ありがとう」


 初めてであった街・フリッチュでは、好きな相手に白い花を贈る。意味は、


『私はあなたに純粋です』

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【完結】異世界であきんどやるほうが自分に合っていたので結果ラッキーかも~前世は底辺だったが今は王女とイチャイチャ~ 玉川稲葉 @kenpuri

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