第167話:約束の品です

 俺たちの元へ、リリアンヌがやってきた。


「楽しそうね? まるで親子みたい」


「そんなわけないじゃん、こんな大きな子供がいるとか、ないない」


 と全力で否定したが、リリアンヌが「当たり前じゃない」と言ってきた。


「クリスティアンが父親で、息子がタナカって意味で言ったんだから」


「あ」


 そりゃそうか。俺たちは「あははは」と嘘笑いすると、首を傾げているリリアンヌだった。


「ところで、聞きたいんだけど」


 あまり大声で言えないのか、耳を寄せてくるようなしぐさをしてきた。


「持って帰ってきた中にある、銃ってやつはどうすれば良いの?」


 頭からすっぽり抜けていた。この世界にはまだない、おそらくユングフラウが考えて開発しただろう武器だった。結局当たらなかったけど、機能としては使えていたことはわかってる。


「オーズィアは王を失って、これからどうなっていくかわからない。けど、それを作った職人は残っているし、製造方法もわかっているはずだろう」


 このままだとお金を稼ぐために、その技術を他の国に売るだろうと思う。


「ということは?」


「この世に出来てしまった時点で、後戻りはできない。処分してしまっても意味は無いと思う。新しい武器ができると、それをに対抗できる盾ができる。それができればさらに突き抜けられる武器を考える、そういうのが繰り返されるのが歴史だから」


 エルフリーデもリリアンヌも、銃の威力は目の前で見ていたのでわかっている。発射される弾が当たると即死になるのは想像できる。


「……」


 それがこの世の中に流通するということは、戦い方も変わっていくし、簡単に人が死ぬかもしれないと、今日を覚えたようだ。


「ひとまず俺たちが引きとっても良いか?」


 リリアンヌは一瞬俺を疑うように見たが、首を振る。それに俺は気が付いた。


「俺がそれを使って犯罪をしようと思っていない。ビンデバルトにいる職人に知り合いがいて、銃を見せて対策を相談できないか聞いてみるよ」


 ゴトーさんが前にいた時代は、すでに火縄銃は存在していた。技術的なことや、そこからの扱い、それに俺とクリスティアンがいて昭和平成の時代の観点から、集合して考えると、もう少し俺たちのいた世界と違う進化ができるかもしれない。


「じゃあ、信用して出て行くときに渡すよ……と、そう、その出て行くことだけど、これからどうするの?」


「具体的には決めてはいないけど、また旅に出てみようと思っているんだ」


 たぶんそうだよね? とエルフリーデを見ると「もちろん」と笑顔で返してくれる。


「クリスティアンは? 仕事が無いならウチで雇っても良いけど?」


 腕っぷしはミヒャエルを超えることはわかったので、リリアンヌも使えるなら是非というところだろうが、クリスティアンは首を振っている。


「俺は、タナカたちと共にするよ。いつ消えるかわからないけど……」


 俺たちもそもそもそのつもりだったので、何も問題ない。


「消えるとか、悲しいから考えないように一緒に行こうね」


 エルフリーデは母親らしく……なのか、しっかりとフォローを忘れない。


「消えるんだったら、そのときはウチにおいでね」


「ありがとう、頼りにさせてもらうよ」


 リリアンヌはわかっていないけど、その気持ちはありがたい。クリスティアンも礼を忘れない。


 そして、忘れてはいけない本題があった。


「リリアンヌ、お酒のことなんだけど……」


 酒で失敗したことを知っている二人を前に聞きづらいのだけど、今回は流通がメインだ。俺が商業ギルドで扱わせてもらうのがメインだ。だから正当な……んだけど、やはり遠慮する気持ちが強い。エルフリーデは「どうぞどうぞ」と言ってくれているが。


「? 何を遠慮しているのかわからないけど、当然の権利だし、製造している現場からちゃんと見学させるし、流通も、初めは店の余剰分になっちゃうけど、タナカに任せるわよ」


 ガソリンを得た車、ではないけど、ウキウキが止まらない。酒と蕎麦。良い世界になってきそうだ。


「見学は明日で良い?」


「もちろん!」


 まだまだ楽しめそうで何よりだ。


 そのテンションの上がり方にエルフリーデとクリスティアンは呆れて苦笑いしている。

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